読書日記

『イタリア人が見た日本の「家と街」の不思議』  <旧>読書日記1375 

2023年05月08日 ナビトモブログ記事
テーマ:<旧>読書日記

ファブリツィオ・グラッセッリ『イタリア人が見た日本の「家と街」の不思議』 パブラボ

著者はイタリア人の建築家で東京に住んで20年余り、日本に永住したいそうだ。その著者が題名の通り、日本の「家と街」に関する違和感・疑問点を対話形式で述べたもの。読んだ感じでは対話の相手は訳者でもある水沢透氏の様な感じだ。

著者の違和感は日本(の都会)では一つ一つの建物には見るべきものがあるけれど、街全体の美観が考えられていない、ということ。もう一つは日本人は30年か40年かで壊れてしまう住宅を建てる、と言うことで著者の言いたいことはほぼこれに尽きる。そして、それは日本が経済を優先し過ぎているからだと断じる。

ただ、こうした見解が20年も日本に住んでいてのものだとしたら、浅薄なものでしかないだろう。なんと言うか、西欧(この場合はイタリアだが)の方が優れているという優越感から来るもののようにも感じられた。さらに言えば、西欧では「美観」を守るために建築規制が厳しいとも書くし、イタリアでは美しい場所とそうでない場所が完全に分かれていることがイタリアの良さである(つまり、日本では新旧が入り交じっていて統一的な美観を感じられない)とも書いているのだが・・

例えば<重要伝統的建造物群保存地区>に著者は行ったことがあるのだろうか(*)。本書の第5章「小さな村にできること」ではイタリアの村が観光資源になっていることが書いてあるが、日本の保存地区も多くの観光客が訪れているにも関わらず、そして一ヶ所でも訪れていればもう少しイタリアと日本の相違がはっきりと示されるはずである。

住宅にしても、まだ住めるのに取り壊されてしまうという実態と住宅が30年〜40年しか保たないという認識の間には大きく違う様な気がする。現に日本の民家には築100年を越えるものがザラにあるし、古い建築物ならば法隆寺など1000年以上のものもある(とは言え、イタリアの古代ローマ時代から続く建築物には負けるのは確かだ)。

そして、日本とイタリアの都市の規模の差。面積についてはともかく人口を見ればイタリアでは100万人以上の都市はローマ(約285万人)とミラノ(約130万人)、人口50万人以上の都市に広げてもナポリ(約97万人)トリノ(約91万人)パレルモ(約66万人)、ジェノバ(約61万人)と4つ増えるだけ。後はすべて人口40万人以下である。で、都市としての面積は概して広い。ヴェネツィアですら本島は5.17㎢であるが市域は412㎢もある。これに対して日本では東京23区全体でも面積は627.6㎢で人口は約970万人である。この面積と人口の差がイタリアの都市だと広場を作りその広場を中心とした都市設計ができるのに、東京ではちまちまとしたビルや住宅が多くてその様になっていない理由の一端があろう。

なお、この著者は他にも『ねじ曲げられた「イタリア料理」』、『イタリアワイン(秘)ファイル日本人が飲むべき100本』、『イタリア人と日本人、どっちがバカ』という様な本を書いていることが判ったけれどこの本のレベルから考えれば読む気はしない。

(*)2019年末で全国の43道府県100市町村120地区、合計面積3600haにおよぶこの保存地区は以下の1〜3のどれかに該当していれば指定される。
1.伝統的建造物群が全体として意匠的に優秀なもの
2.伝統的建造物群及び地割がよく旧態を保持しているもの
3.伝統的建造物群及びその周囲の環境が地域的特色を顕著に示しているもの
具体的には、城下町として郡上市郡上八幡北町(岐阜県)、豊岡市出石(兵庫県)、武家町として南九州市知覧(鹿児島県)、仙北市角館(秋田県)などがあり、商家町として香取市佐原(千葉県)、美馬市脇町南町(徳島県)などがあり、その他の分類として鉱山町、在郷町、宿場町、茶屋町、門前町、寺内町、港町、醸造町、製磁町、漁村集落、山村集落、農村集落、島の農村集落などに分けられている。
(2020年10月2日読了)



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