読書日記

『「競技ダンス」へようこそ』 読書日記1355 

2023年03月25日 ナビトモブログ記事
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二宮敦人『「競技ダンス」へようこそ』新潮社(図書館)

講談社が発行している「月刊 少年マガジン」に『ボールルームへようこそ』というコミックがある。ダンス競技会を扱った作品であるが、時々、このコミックを読んでいた。そこへ『最後の秘境 東京藝大』という本を書いた著者の二宮敦人が自分も学生時代に競技ダンスをやっていたことを明かしての小説を書いた。

で、図書館の蔵書検索をしてみたら今年3月発売の本であるが、蔵書の中にあったので予約して読んだ。
熱い本であった。著者が何にどうしてそこまてのめり込んだのか・・「(ダンスが)面白かった」というのが著者の理由(下の著者インタビューの抜粋参照)なんだが、その熱さは伝わるものの面白さはおそらく経験者でないと判らないものかもしれない。

大船一太郎(ワンタロー)という一橋大学に入学したばかりの学生が主人公。大船がダンス部として過ごした大学時代のパートと大学を卒業して10年後、社会人となって先輩同期後輩というともにサークルを過ごした仲間たちにインタビューして当時を振り返るパートとが交互に進行していく構成。ワンタローはほぼ当時の著者そのものなのであろう。

ワンタローが属した競技ダンス部は体育会系のクラブでインターカレッジクラブ。一橋大学、津田塾大学、東京女子体育大学の3大学で構成されている。部員数は全部で75人。4年生は男5人、女7人。3年生が男6人、女7人。2年生が男6人、女13人。そして入ったばかりの1年生が男8人、女23人という構成。
この男女比のアンバランスが競技ダンスの特徴でもある。

練習を「やらされる」のは1年生と2年生。2年生をお手本に1年生が練習し、3年生と4年生が指導する。なお、コーチだの監督などの大人はおらず、完全に自主的な部活動である。3年生と4年生は主に年に20回以上開かれる競技会に出て競うのであるが、一橋大の競技ダンス部は強豪校の一つである。全くの初心者が入部して運が良ければ全国1位にもなり得るという体育会系の部活なんて他にはないだろう。

ネットにある著者インタビューによると、競技ダンスの魅力は「ほぼ誰もやったことがないので、スタートは横一線。先輩たちも一から、きれいな立ち方、きれいな歩き方から教えてくれます。体育では「立つ、歩く、走る」ことなんて、わざわざ習わないですよね。なので、競技ダンスの体の使い方を教わっていくと、「意外と走れるんだ」「こんな風に動けるんだ」と新鮮な発見があります。」ということになるらしい。

そして、「競技」ではあるものの明確な採点基準が無く、一斉に何組もが踊る中でいかに審査員の目を捉えるか・・審査員の主観で結果が左右されるという不条理。1回戦で負けたのになぜか最終審査で5位となったという不可思議の起こる世界(まあ、滅多に無いことだろうけれど)。

この小説の一番大切な肝の概念が2年生の終わり近くに決められる「固定」と「シャドー」。競技会に出場するために組む固定したパートナーとそうした固定が得られなかったシャドー…シャドーになった人はほとんどがその時点で部を辞める。どのようにして「固定」が決まっていくのか、この小説全体がこの概念を読者に理解して貰うためのものかもしれない。その他にも独特の世界にある独特の情念、一つ一つ取り上げていけば結局この本になる感じだ。

amazonの書評で☆5つの感想を書いているのがほぼ全員競技ダンスの経験者というのが面白く、大学こそ違っても経験者同士なら判る感情があるのだろう、と読了後に思った。
(2020年8月2日読了)



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