読書日記

『せきれいの詩』 読書日記173 

2023年03月24日 ナビトモブログ記事
テーマ:読書日記

村木嵐『せきれいの詩』幻冬舎時代小説文庫

本書で私は高須4兄弟という言葉を知った。美濃国・高須藩主であった松平義建(マツダイラ ヨシタツ)の子供は男子が多く、本家である尾張徳川家を始めとして、いくつかの家に養子に迎えられ幕末維新の時に活躍する。

本書はこの高須4兄弟と維新との関わりを綴ったものである。

が、(「BOOK」データベースによる)本書の内容は以下の通りである。
江戸幕府二五〇年。侍の世の終わりに見えたのは、円く優しい人の世の始まり―。押しかけ女房になった成瀬家の姫・澪。その夫で、徳川慶勝に忠実に仕える陸ノ介。現代の礎となる激動の時代、翻弄されながらも愛と信義を貫く夫婦の姿を繊細に活写した傑作時代小説。

というのであるがこれは冒頭部分であって意外な展開が待っている。なお、ここで出てくる成瀬家というのは尾張藩付家老であり、犬山城主であった家であり、主人公(?)である陸ノ介は徳川慶勝の兄弟でもある。そして、仲睦まじい兄弟として描かれるのは以下の4人。

尾張徳川家14代当主慶勝(ヨシカツ次男)、一橋徳川家10代当主茂栄(モチナガ五男)、会津松平家9代当主容保(カタモリ七男)、桑名松平久松家4代当主定敬(サダアキ八男)であり、陸ノ介は戊辰戦争で切腹した六男である某に本書では比定される。

いま、ここではとりあえずそれぞれ4つの藩の当主として書いたけれど、4人とも高いろいろ立場が変化している。例えば茂栄は高須藩11題藩主から慶勝の後を継いで尾張藩主となるがその地位を慶勝の息子に譲って一時引退し、一橋慶喜が15代将軍となった時に一橋家を継いで当主となった(実はそのつどに名前も変わっている)。

読んでいる時はまずこの4人が兄弟であることに驚き、会津藩と桑名藩の当主は実の兄弟だったのかとか、幕末尾張藩の中立的な動きの原因はこういうことであったかとか思うと同時に、時により名前と立場が複雑に変化し、なかなか把握するのが困難であった。

初めは陸ノ介と澪の話かと思っているうちに視点が慶勝からのものに変化して、陸ノ介と澪は完全に脇役となってしまうのであるけれど、当初から慶勝の視点では書きにくかったのかも知れない。また、慶喜は「嫌な奴。弁だけ立つ奴。責任を放棄する男」として描かれるけれどもさもありなんとも思わせられた。
(2023年3月15日読了)



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