読書日記

『東京ロンダリング』 読書日記73 

2022年09月01日 ナビトモブログ記事
テーマ:読書日記

原田ひ香『東京ロンダリング』集英社文庫

こういう仕事が実在するかも知れないと思わせる話(*)。不動産の取引で仲介業者は事故物件(その物件で人が死んだり、特殊清掃が行われた物件…国土交通省の2021年のガイドラインによる)については、その事実を入居者や入居予定者に告知する義務がある。告知義務のある期間は3年間とされているが本書の発行は2013年であり、まだそうしたガイドラインが制定されていない時であるので、事故があってから1度でも住んだ居住者がいると、その義務は解消されるということになっている。ということで本書の裏表紙では

内田りさ子、32歳。訳あって夫と離婚し、戻る家をなくした彼女は、都内の事故物件を一か月ごとに転々とするという、一風変わった仕事を始める。人付き合いを煩わしく思い、孤独で無気力な日々を過ごすりさ子だったが、身一つで移り住んだ先々で出会う人人とのやりとりが、次第に彼女の心を溶かしてゆく―。東京の賃貸物件をロンダリング(浄化)する女性の、心温まる人生再生の物語。

ということになる。集英社文庫の今年の「ナツイチ」対象本だったので、景品(ブックバンド)目当てに購入した。200ページ足らずの短いものだということも選んだ理由だ。直接、読書日記には関係ないけれど、集英社の「ナツイチ」、新潮社の「新潮文庫の100冊」など夏になると催される文庫本フェアがある。たいしたものではないけれど、小物のおまけが付く。何となくであるがその小物が欲しくて(出版社の思惑に乗せられて)何か文庫を買おうと思って平台を覗いてみたりするけれど、買おうと思う本は少ない。というのはフェア本には「若者向け」の作品が多く、既読であったり読む気がしないものもあるからで、買うかどうか検討するものは少ない。

さて、りさ子は結婚し、3年間専業主婦をしたあと、夫に勧められたカルチャーセンターに通う内にそこに同じように通っていた佐伯という男と不倫する。それがばれて離婚、無一文で放り出され、住む所も無く不動産屋をいくつも訪れるが部屋を貸してくれる所は無かった。最後に相葉という男がやっている不動産屋にたどりつくまでは。相葉はいくつもの質問をした後、りさ子にロンダリングの仕事をしないかと提案する。家賃は無料、逆に住むだけで日当5000円を貰える。という思っても無い話だ。りさ子はその提案を受け入れ、ほぼ1ヶ月毎に住む所を変えるという仕事を始める。

いつもにこやかに愛想良く、でも深入りはせず、礼儀正しく、清潔で、目立たないように。そうしていれば絶対に嫌われない。という相葉の教えを実践するりさ子はロンダリングの仕事があっていたのか、いつの間にか菅という中年の男性と並ぶ店のエースとなっていた。

という情景が示されたあと、谷中にある「乙女アパート」が新しい職場になってから話が展開する。谷中は人情が厚くて町に住む人はみな知り合い、と家主の真鍋夫人は宣言し、しばらく放っておいたあと、突然近所の定食屋の富士屋の手伝いを頼めないかと言ってくる。いやいや受け入れたりさ子が手伝いをしているさなかもう一人のエース、菅が突然失踪し、代わりに彼が住んでいた高級マンション(専有面積110u、43階の一室)に入所することになる。マンション内のレストランでの飲食は8割引(それでも数千円になる)、なんでもコンシェルジェに言えば調達してくれる。ただ、マンション内では常に監視カメラが動いているし、外出する時はコンシェルジェに事前に報告する必要がある。もっとも、りさ子は外に出ないのである。

で、なぜ菅が失踪したのかという謎解きとその解決という話になり、りさ子はロンダリングの仕事は辞めないまでも、谷中の町と繋がりを持ち続けようとする、という結末が訪れる。

この日記を書いている現在、この続きと思われる本を購入したのだが、どうやらこの両者の間にもう1冊あるらしい。ということで新しい本を読むのはその2冊目を読むまでしばらく延期することになった。

(*)著者はこのシリーズの第2巻『失踪.com』の後書きで、この仕事は架空の仕事で私が作り出したものである、と明言している。
(2022年7月10日読了)



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