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カシアス
息子と糸瓜(へちま)
2020年11月23日
テーマ:テーマ無し
北村薫の「詩歌の待ち伏せ」には、
大人になると子供の感性を失うとの趣旨が書かれている。
私がまだ30代、横浜の家に住んでいた頃・・・
庭の、南道路沿いには貝塚が並び、
その内側に、桜、はなみずき、山茶花、柘植、椿、梅等が植えられて、
季節ごとに緑の濃さが微妙に変化する。
梅ノ木は、毎年花を咲かせて実を付けている。
初夏のある日、次男(小学生2年?)が、梅の木の前に二粒の糸瓜の種を埋め、
やがて芽が出て、細いつるを梅の枝に沿わしながら育ち始めた。
他にもいろいろ草花はあったが、次男にとっては自分で育てる、
自分の糸瓜だった。
見るからにうきうきと心躍らせながら毎日水をやり、
ジャックの豆の木の如く、糸瓜は順調に延び、大人の背丈くらいになり、
やがて、つるの先端に小さな実が育ち、黄色いかわいい花が咲き始めた。
当時私は、土日の午前はテニス、午後は庭木の剪定が定番だった。
休日に庭木と会話しながら、枝の形を整えるのは精神的に落ち着き、
1週間の仕事のもやもや解消には大いに効果がある。
ところが、ある明るい午後、梅の小枝を切った瞬間、
もののはずみで、糸瓜のつるを一緒に切ってしまった。
あっと、思ったが、時既におそく、つるは見事に上下に分かれている。
小さな糸瓜の実とかわいい花は、まだ気がつかないようだが、
どっちにしても、水も栄養も来ないから、一巻の終わりだ。
仕方がない、ワシントンの桜とは親子が逆だが、
人間、正直であらねばならないことに変わりはない。
「お〜〜い、○○○・・・」
と庭の向こうの方にいた次男を呼んで、ごめんごめんと言いながら、
事の顛末を告げた。
次男は、一目で状況を理解し、黙って少し離れたところに行って、
向こうを向いて、ぐすん・・・と。
困ったなと思いながら、糸瓜を眺めると、
切れたつるの横に、もう一本つるがあり、こっちは無事だ。
おまけに、そっちにも、小ぶりの実と花の蕾があり、
これから咲くぞといった感じだ。
しめたと思い、「大丈夫だ、まだ、こっちにもあるぞ。」と言ったら、
「もう、いいよ、」と相手にされなかった。
大丈夫なわけは無く、あの花はあの花でこの花ではない、
当たり前か・・・
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