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ほっこり
大鯰と泥鰌(小話)
2020年04月09日
テーマ:小咄
○ オオナマズとドジョウ
地平と空の区別がつかぬような漆黒に覆われた闇夜のこと、川底の砂地を這う大きな黒い生き物がいた。
長いひげを砂地に這わせながら体をくねらせ、水草の森の中をゆったりと動いていた。
さすが、この川の主だけのことはある。
威風堂々としたその姿には貫禄が漂っている。
彼はその長いヒゲで川底の平べったい石をつついた。
すると、小さな魚が短いヒゲを少しだけ石の下からのぞかせた。
「誰かと思えば大鯰の親分じゃないですか。こんな深夜に何のご用ですか?もしかして、私を食べに来たのですか?」
「泥鰌どん、仲良しのお前さんを喰いに来たんじゃないよ。喰う気なら速攻で吸い込んでしまっているよ。そうじゃないんだ。実はこの川で一番頭がいいお前さんの知恵を借りに来たんだよ。安心して石の下から出てきなさい」
泥鰌は石から出てきて、水草の根元で大鯰と向かい合った。
「話ってなんですかい?」
「わしはお前さんもご存知のようにこの川の中では一番強い存在だ。タナゴなどの小魚からカエル、小エビ、虫など何でも食べる。それに・・」
「泥鰌もでしょう!私の兄弟達も皆、貴方様に喰われて生き残りは私だけですよ。」
「すまんの〜。雑食じゃからなぁ、可哀そうなことをした。どうじょ、勘弁な、自分のしたこととは言え、同情するよ」
「泥鰌に引っ掛けて駄洒落飛ばしてるんですか?怒りますよ!本当に心からすまないと思っているんですかね」
「本当に心底反省しているよ。でもな、本能には逆らえんのだよ。口に入るものは何でも喰ってしまう。ところが、最近、小魚もカエルも、皆、この辺りにはいなくなってしまってな、いつも空腹なんだよ。そこで、相談というのは、実はエサを求めて引越ししようと思うんだが何処がいいかということじゃ。いい所があったら教えてくれんかのぅ」
「そう言うことですか。私なんかボウフラとかミジンコとかがたくさんいますから困っていませんがね。大鯰の親分さんの胃袋を満たすには足りませんよね」
「どこかいい場所がないだろうか?」
「それなら、河口辺りがいいんじゃないでしょうか。たくさんの栄養を含んだ川の流れの終点ですからプランクトンが多い。それを食べる小魚や中型の魚などたくさんの生き物がいますよ。ここから5kmほど下流になります。河口付近がいいと思います。」
「なるほどねぇ、河口か!そりゃいいかもしれんな。さすがだな、泥鰌さんよ。お前さんはやはり知恵者だよ」
「いや、それほどでも〜」
と、嬉しくなって、つい気が緩んで水草の茎を上の方へと泳いでしまった。はしゃいだのである。
「あぶない!」
大鯰は叫んだ。が、遅かった。
水草につかまって頭を下にし、大きな釜を広げていたタガメに泥鰌は捕まってしまった。タガメはその長く伸びた口を泥鰌の体に差込み、毒液と消化液を泥鰌に注入し始めた。
しかし、大鯰の動きも早かった。
大きく口を開け、タガメに飛びついたのである。
一瞬でタガメを飲み込んでしまった。
もちろん、哀れ泥鰌君も一緒に喰ってしまったのだ。
「ごめんよ、泥鰌君。お前さんを喰うつもりはなかったのに、結局、約束を破ってしまった。本当にすまないことをした。一瞬の出来事で空腹に我慢ができなかったからだよ。」
大鯰は心を落ち着けるように川底に降りた
そして、一呼吸おいてつぶやいた。
「なまず喰わずの生活だった・・・のさ」
それから数日後の大雨の日、大鯰は増水した川の流れに身を任せ河口へと引越しをした。
泥鰌の話した通り、食べ物は豊富で大鯰はでっぷりと肥え、体のぬめりも鮮やかに黒光りを増していた。
しかし、彼にも不幸が訪れた。
釣り人に夜釣りで釣られてしまったのだ。
そして、ナマズの蒲焼となった。
人の知らぬ所で諸行無常な生き物達の世界が繰り返されている。
♪Joan Baez〜Donna Donna(Live2018)4:06
https://www.youtube.com/watch?v=dQrsSvms8Kw
懐かしい歌と歌声。若い頃はキュートでしたが、老いてなお気品がありますね。
※ ナマズは雑食の夜行性。蒲焼、天麩羅料理が多い。ドジョウは卵でとじた「柳川鍋」や豆腐を入れた鍋にドジョウを泳がせ、序々に熱くしていくとドジョウが豆腐に潜り込む「地獄鍋」などがあります。
※ 昨日の「老女の会話」に拍手頂いた皆様、ありがとうございました。沈みがちな毎日が続いていますが、うなだれず、顔を上げてなるべく笑いましょう!私は地上波のニュースは見ていません。YouTubeで情報番組を見たり、落語を見て大笑いしています。
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