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パトラッシュが駆ける!

貸します 

2019年11月30日 ナビトモブログ記事
テーマ:テーマ無し

「友人には金を貸すな」と言われる。
金は返してもらえず、ついでに友をも失うから……とされている。
幸いなことに、私のところへ金を借りに来る者はいない。
「あいつはだめだ」と思わせる何かが、
私の顔に、浮いて見えるのかもしれない。
あるいは、需要がないことも考えられる。
私の友人は、それぞれに健全な金銭感覚を持っておられ、
にわかに金に窮するようなことはない。
ということが、あるかもしれない。

「貸すくらいなら、くれてやれ」と言う説がある。
確かに贈与なら、トラブルは起きない。
問題はその金額だ。
そして相手が「くれてやる」に値するかどうかだ。
「腹心の」とか「水魚の交わり」が付く友なら、問題はない。
付き合って一年、漸くその人となりを知った……
くらいの相手だと、いくら気が合うからと言って、
友人とは認めがたい。
高校時代の友人が、十年ぶりに訪ねて来た……
なんていうのも要注意だ。
「え、十万?……そりゃ無理だ」になる。
「一万?」……これは相手により、渡さないでもない。
「千円?」……まあいいよ。
私の場合、こんなことになりそうだ。

逆に私が、借りに行ったとする。
「五千」「一万」くらいなら、何とかなろう。
もしかすると、相手のその顔が、一瞬曇るかも知れないが。

「十万」となると、これはもう、わからない。
即座に、あるいは渋々でも、貸してくれる相手がどれだけ居るか……
その見当がつかない。
となると、十万というのは、彼の私への信頼度を計る、
一つの目安になるかもしれない。
言い出した時に、相手がどんな顔をするか……
試してみたい気がないでもない。

しかし、やらない方がいい。
友を、金でもって試すなんて、やってはいけない。
私の場合、さらに恐れることがある。
「十万貸して」の申し出に、誰も応じてくれなかった場合だ。
嗚呼おれは、かくも人望がなかったのか……となる。
あるいはまた、かくも薄情な奴らを、友と信じて生きていたのか……
となって、にわかにこの世を、厭いかねない。
金の貸し借りは、だから、やらないに越したことがない。

 * * *

驟雨があり、人が駆けて行く。
私は経営する囲碁サロンの前に立ち、それを眺めている。
顔見知りが通る。
「どうぞ」
すかさずビニール傘を差しだす。
見ず知らずも通る。
「お持ちください」
同じように差し出す。
女性には、特に差し出す。

来客があり、歓談しているうちに、雨が降って来た。
「じゃあ、そろそろ」と、腰を上げる段になっても、降り止まない。
「どうぞお持ち下さい」
これもまた、傘を差しだす。
私がお金を出し、買った傘ではない。
だから気安く、こう言ってやる。
「返却は不要です」

そもそも私は、傘を買わない。
保有する傘は、寄贈品ばかりだ。
私が“傘貸し”を行っていると知った、友人知人が持ち寄って下さる。
「電車の中に、置き忘れてありました。どうぞ」
手土産代りに、持って来てくれる。
「ゴミ置き場に放置してありました」
で、拾って来てくれる人も居る。

多くはビニール製だが、たまに“出物”もある。
黒コウモリは序の口であって、新品と見まごうような、
淡いブルーの婦人用傘もある。
今時は、物に執着のない時代で、まだまだ使用に耐える傘が、
簡単に捨てられている。
電車の中の置き忘れもそうだ。
うっかりではない。
雨が上がった。
となると、ビニール傘なんて、無用の長物になる。
で、故意に放擲するケースも少なくないらしい。

そんな傘を見つけたとて、わざわざ駅事務所に届けるべきか……
物事は、現実的に考えた方がいい。
駅の遺失物取扱所だって、実は音を上げている。
届けられた傘を、引き取りに来る客は、ほとんどないそうだ。
溜まりに溜まり、遺失物センターは、傘で溢れている。
その様子を、テレビカメラが映していた。
放置の傘は、遠慮なく持ち帰り、再利用する。
エコロジーの観点からも、この方がよほど賢い。

返却不要と言ったのに、敢えて返しに来る人も居る。
「ありがとうございました」
丁寧に礼を言われる。
こちらがむしろ、恐縮してしまう。

このところ、傘が溜まっている。
「入り」多くして「出」が少ないからだ。
にわか雨が待たれるが、あいにくとこの季節だ。
長雨ばかりで、皆さんもう、しっかり携えておられる。

傘ばかりは、いくら貯めたって、誰も褒めない。
大雨だからとて、二本三本差すわけにも行かない。
「起きて半畳 寝て一畳」と言われる。
傘なんか、一本あれば、それで十分だ。

 * * *

よくよく考えれば、金だってまた同じこと。
いくら貯めたって、あの世に持って行けるわけもない。
三途の川を渡るのに、六文も残しておけば、それでいい。
いっそ有り金全部、道行く人に配ってしまおうか……
なんてことを、思わないでもない。
思うだけである。
この小心者が、そんな大それたことを、出来るはずがない。
いや、その前に配る金がない。
こればかりは誰も、電車内から持ち帰ってくれない。



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幸不幸は……

パトラッシュさん

喜美さん、
連帯保証人も要注意ですね。
借金の肩代わりをするわけですから。
喜美さんの旦那さんは、きっと人望家だったのでしょう。
ご家族の皆さんの円満そうなご様子を拝見するにつけ、きっと良いご主人だったのだと推察されます。

人に迷惑をかけ、みじめに暮すより、かけられても、胸を張って生きて行く方が、よろしいのではないでしょうか……

2019/11/30 19:53:27

友情とお金

パトラッシュさん

漫歩さん、
苦い思い出がおありだったのですね。
私は幸い、そういう経験はありませんが、友を助けたいと思う、その気持も、よくわかります。
人生はお金だけではないですからね。
苦い思いをさせた方とさせられた方、私はさせた方でなくて、まだよかったと思うのですが……

2019/11/30 19:42:14

金は貸すな

喜美さん

私は子供に良く聞かせました
儀父が友達の連帯保証人していまして
父は早くに亡くなり その友達はお金持ちの人でしたけれど商売失敗して潰れ借金 主人は父親が亡くなっても連帯保証人引き受けていました 我が家が一人払う事になり(良く聞きましたら父親の友達は年金生活 働いているのは主人だけ 其れで我が家が分割でしたけれど全部払いました そんな事で子供には困ったら貸さずに出来たらあげなさいと言い聞かせてあります

2019/11/30 16:32:29

返却不要

漫歩さん

「友人には金を貸すな」。その通りですね。
長い人生で一度だけこの言葉を噛み締めたことがありました。金額の問題より受けた人間不信の傷が大きかったと思います。

パトさんの善意の傘は、感謝を生むことのほかに、ご自身の気分を心地よくする副作用がありますね。まさに好々爺!

2019/11/30 09:50:50

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