忘れえぬ人２

メニュー

テーマ

カレンダー

月別

カシアス

2018年02月18日ナビトモブログ記事
テーマ：幼き頃

小学校3年の時にタクシーに跳ねられたことがある。
当時、我が家は世田谷にあり、
私は吉祥寺にある某財閥系の私立小学校に通っていた。
井ノ頭線の池の上駅まで歩き、電車で吉祥寺に行き、
更に15分ほど歩いて学校に通っていた。

毎日かなりな距離を歩くのと、
ラッシュの電車が嫌だったが、
小学生に選択権はないから仕方が無い。
おまけに学校の成績は芳しくなく、先生には無視され、
クラスでは虐められる事もあり、
病気か怪我でもして、休めたらいいなと、
心密かに思っていた。

季節は冬だったが、学校からの帰り、
池ノ上駅を降りると、既に夕闇迫る頃だった。
帰り道、ややお腹がすいていたが、勿論、
買い食いなど許されているはずはない。
が、通りの向うに駄菓子屋があるのを見て、
丁度何かのお釣をくすねたお金がいくらかあるので、
駄菓子を買おうと、通りを渡って店に入った。

もっともらしい駄菓子を買い、
歩きながら食べようと思ったが、
通りのこちら側は商店が並び明るく、
食べ歩きはしにくい。
向こう側は街頭もなく暗いから、
あそこで食べようと思い、
通りを渡るべく、車道に足を踏み出した。

２，３歩行ったところで、左足を前に出した時、
右から走ってきたタクシーに跳ねられた。
タクシーのバンパーが左足脛下の内側に当たった
ところまでは分かったが、瞬間、意識が無く、
気が付くと、道路に倒れていた。
立ち上がろうとするが、
左足の脛から下が痺れて、起き上がれない。
足の付け根と倒れたときに打った頭が痛いが、
気は確かだ。
これで当分学校に行かなくてすむと、
不謹慎な事が頭を横切った。

直ぐに先ほどの駄菓子屋からおばさんが出てきて
、救急車を呼んでくれた。
救急車の隊員に抱き上げられた時、
右手に握っていた駄菓子はそのままではまずいと、
手を開いて下に落とすと、
逆に目立ったようで、駄菓子屋のおばさんが見ていた。

病院に運ばれ、レントゲン写真を撮ったが、
骨に異常は無くたいした事はない。
タクシーのバンパーにが当たった部分が内出血で、
紫になっており、
あとは足の付け根が内出血している程度で、
目立った外傷はない。
頭を打ったところはたんこぶが出来ているが、
治療の必要はないらしい。

検査後、では現場検証をしようと、
今度はパトカーに乗せられて、現場に向かった。
初めてのパトカーへの乗車にわくわくしながら、
後席に乗せられ、運転係りとは別に、
若いお巡りさんが、助手席に乗り、
直ぐに現場に到着する。
現場には母も来ており、
駄菓子屋のおばさんも立ち会い、
助手席に乗っていたお巡りさんが仕切って
検証が始まった。
最初に、何故通りを渡ったのかを聞かれたので、
駄菓子を買ったとは言えず、こちらのほうが明るく、
歩きやすかったからだと、嘘をついた。

一通りの状況確認をした後、お巡りさんが、
駄菓子の落ちているのを見つけて、拾い上げ、
駄菓子屋さんのおばさんに、
何かたずね、おばさんが何か答える。
パトカーの中にいたので内容は聞こえないが、
私が駄菓子屋で買ったものを落としたと
説明している事は間違いない。
更に通りの向こう側を指差し、何か言っている。
あちらは暗いから渡ろうとしたのはおかしい、
などといっているのではないかと思い、
いい気分ではない。
母は直ぐ横で一部始終を聞いていた。
なにせ激しい母の性格だ、
こてんぱんに怒られるだろうなと覚悟する。

お巡りさんが、後席を覗き込み、
落ちた駄菓子を見せて、
これを知っているかと、訊くので、知らないと答える。
横に立っていた母が、
私に何かを言い始めようとしたが、
直ぐにお巡りさんが、まあ、いいですよと、
止めてくれた。
以降、母は駄菓子の話を持ち出す事はなかった。

お巡りさんは、お兄さんと言ってもいいような、
若さで、おそらく２０前半だろう。
私にはとても優しく、落ち着いた話ぶりで、
子供心に頼りがいがあったし、
何よりも母の追求を簡単に退けてくれたのは
有りがたかった。
あの時の冷静な話しぶり、優しそうな顔は、
半世紀以上たった今でも目に浮かぶ。