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パトラッシュが駆ける!

藤井効果 

2017年07月15日 ナビトモブログ記事
テーマ:テーマ無し

映画「花戦さ」の中で、池坊専好さんが嘆いていた。
「わしゃー、人の名が覚えられんのじゃよー」
だから、寺の執行(しぎょう)など、務まらないというわけだ。
その代わりに、彼には、花を活かす、格別の才能があった。
「花僧」として、衆望を集めていた。
だから、その物覚えの悪さも、逆に彼の、天衣無縫を表すものとして、
人々に親炙されていたと思われる。

私もまた、人の名が覚えられない。
近年とみに……である。
若い時は、こうではなかった。
私は、長らく、商店を経営していて、人を見ることに自信があった。
リピーターのお客さんなら、顔を見た瞬間に、その名を思い出していた。

だから、同じく失念症であっても、専好さんのそれとは、質が違う。
彼は、生来である。
私のは、退化である。

店を閉じ、緊張感がなくなった。
そのせいであろう。
いや、単なる、経年劣化かもしれない。
いずれにせよ、困ったことになっている。

 * * *

私には、公務がある。
なんてことを言ったら、笑われるだろうが、当人は真面目だ。
毎週一回、区立の小学校へ行く。
そこに、三十人ほどの生徒が居る。
算数や国語ではなく、囲碁将棋を教える。
正課ではなく、クラブ活動である。
それでも、学校へ行き、生徒らに教える。
という事実が、私をして、それを公務とさせている。

ズボンやシャツを、よそ行きのそれに、着替えて行く。
先生たるもの、生徒に、後ろ指を指されては、ならない。
鏡を見て、髪や髭などを、整える。
歯も磨き直す。
客の居ない、囲碁サロンにおいて、あくびをしている時の姿とは、
我ながら、大いに違うと思っている。

最近どうも、小便が近い。
それで、学校に着くと、先ずトイレに行く。
そこが、職員用トイレであるせいかもしれない。
不思議に、しばしば、校長先生に会う。

「お世話になります」
彼、教育者でありながら、腰が低い。
「暑くなりましたね」
肩を並べ、用を足す。
この情況を、端的に表す、卑語があるのだが、もちろん私は使わない。
ここは、教育の場である。

「転入生がありましてね。将棋部に入りたいそうです」
「ほう……」
実を言えば、こういう生徒が、昨今増えている。
藤井効果だ。
「ベルギーから、帰国した児童です」
「ほう……」
「よろしくお願いします」

教室に入ったら、なるほど、見知らぬ顔がある。
「駒は動かせるかい?」
「はい」
「何年生?」
「五年です」
「名前は?」
「○○です」
「よし、やろう」
囲碁将棋は、一対一で教えるのが基本だ。
早速に、手ほどきをした。
そして、勝たせてあげる。
自信を付けさせるためである。

この児童の名を、私は、帰る時には、もう忘れてしまっている。
えーと……
思い出そうとすると、なおだめだ。
来週、会った時に、聞き直そうと思っている。

「ベルギーを漢字で書けるかい?」
「書けません」
「こう書くんだぜ」
手帳を取り出し「白耳義」と書いてみせた。
「へえ……」
彼のあだ名は決まった。
当分「白耳義」でゆこう。
これなら、忘れることはない。

 * * *

生徒が増えている。
目に見えて、増えている。
藤井聡太君のおかげだ。
連戦連勝を、メディアが大きく報じている。
地味で、暗ーい印象さえあった将棋が、にわかに、脚光を浴びている。
フィーバーと言ってもいい。

それが子供の世界にも及んでいる。
入部希望者が、毎週のように現れる。

困ったことになった。
新規入部者の、その名を、なかなか覚えられない。
えーと……
胸の名札を、覗き込んでは、話しかける、情けない先生となっている。

専好さんは、花を活かして、名をなした。
命を賭して、時の権力者とも、渡り合った。
この私には、世に優れたる、何物もない。
失念症だけが似ている。
どうにも、困ったことになっている。



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漢字が好きで

パトラッシュさん

漫歩さん、
老いは、感じないで下さい。
むしろ、その博識をこそ、誇って下さい。(笑)

私は、巴里、倫敦、独逸、伊太利、伯林などなど、外国の地名を、漢字で書くのが、大変愉快なのです。(知ったかぶりでも、あるのですが)
折あれば、使いたくて、たまらないのです。
(滅多にありません)
今回は、その好機でした。
そのチャンスを与えてくれた、少年に感謝しています。(笑)

2017/07/17 20:07:06

「白耳義」

漫歩さん

国民学校4年生の1学期まで戦時下でした。
漢字の国名表記を初めて知ったのはその頃だったと思います。
その後、中高生時代に読み漁った所謂明治の文豪本はその表記でしたね。
戦後の作家も使っていたような気がしますが、思い違いかも知れません。

懐かしさと共に急に老いを感じました。
パトラッシュさんの所為です。(笑)

2017/07/17 18:59:13

気にすることはありません

パトラッシュさん

喜美さん、
昨日は、お疲れさまでした。
でも、楽しかったことでしょう。
名前、出ませんよね。
忘れたって、何とかなります。
代名詞を使えばよいのです。
気にせず、行きましょう。

2017/07/16 12:01:13

馬鹿です

喜美さん

昨日はお客様で朝から夜まで
楽しみの兄弟会 息子が夕方から
友達4組流し素麺しながら来ると。
4組と16人随分違いますよね
この頭では考えられないし娘に60歳の貴女より25年分抜けているのよ
と言いましたら脳は使うほど良く成るですって 其れには1本取られました
忘れチャンピオンです

2017/07/16 08:55:46

なるほど

パトラッシュさん

みさきさん、
そうかもしれませんね。
一人の日本の少年が、海外でも話題になっているようです。
その少年のやっているのが、将棋。
なら、自分もと、思うのかもしれません。

白耳義少年、目が輝いています。
将棋を出来ることが、うれしくてたまらないようです。
このまま、伸びて行ってほしいものです。

みさき家のご両人、いい勝負ですね。
家庭内というのは、気の休まる場、旦那さんだって、
緊張感がゆるみ、ついでに脳の働きだって、弛緩しているのかもしれません。
仕事場なら、きりっとしているのでしょうけれど……(つい、男の味方)

2017/07/15 15:45:08

勝負あり?

みさきさん

帰国子女のお弟子さんですか、楽しみですね。
藤井聡太4段の連勝記録を止めた佐々木勇気5段も、ジュネーブ生まれとか。
海外に育つと、却って日本的なことへの思い入れが強くなるかもしれません。

我が家でも「お名前ど忘れ症候群」が頻発します。
テレビを見ながら、
夫:「これ誰だっけ?」
私:「あなた、昨日も訊いたわよ!」
夫:「で、誰だっけ?」
私:「忘れたけど…」
…どっちもどっちですね。(笑)
でも、内心、私の方が、ちょっとだけ勝っていると、思うのです。

2017/07/15 14:13:09

そうでしょうね

パトラッシュさん

シシーマニアさん、
さりげない風を装いつつ、当人は、人知れぬ努力をしているのでしょう。
さもなければ、天才(人名覚えの)かの、どちらかです。
私の聞いた話ですが、さる大会社の社長は、人に会うと、すぐにその相手の名を、メモするそうです。
メモ用紙がない時は、とりあえず、自分の掌に書くなどして。
それまでして、人の名を覚えるということは、ビジネスを進めるうえで、有利だからでしょうね。
経験で、それを知っているので、余計に、熱心に覚えるのだと思います。
私の場合、ビジネスでもなし、必死に覚える理由もないので、余計にルーズになっております。
そりゃ、覚えているに、越したことはないのですが……

2017/07/15 13:18:51

名前は難しいですね

シシーマニアさん

カナダに住んでいた頃、外国人の為の英会話教室に参加していました。

生徒達は、様々な国から来ているので、名前を覚えるのは、一苦労でした。

でも、先生は見事に覚えていて、帰りにスーパーで会っても「ハーイ!○○」と呼びかけてくれます。

ところがあるとき、感心している私に向かって、「実はね、機会ある毎に、youでは無くて、名前を呼ぶ様にしてるのよ・・」と、密かに努力していることを打ち明けてくれました。

それからは私も真似して、音大で教えていた頃、出来るだけ会話の中に、相手の名前を入れました。

時には、その学生の出席カードを、事前にチラッと覗いて確認したりしながら・・。

2017/07/15 09:44:11

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