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パトラッシュが駆ける!

二人のM子 

2015年07月17日 ナビトモブログ記事
テーマ:テーマ無し

「今日は、試験休みです」
私が何も言わないのに、M子の方から言った。
だから、平日の午前中にも拘らず、来ました。
という意味だ。

これが囲碁サロンだからいいが、
ゲームセンター辺りでうろついていたら、
少年課の刑事に、呼び止められるだろう。
中学生にしては、M子は身体が小さい。
学校名を聞かれ、事情を聞かれ、もちろん、
放免してはくれるだろうけれど。

「よし、やろう」
碁盤を挟み、向かい合った。
彼女、このところ、やる度に強くなっている。
私の仕掛ける、幻惑や陽動に、惑わされなくなっている。
さりとて、まともに囲い合っていると、こちらの地が、足らなくなる。
困ったことだ。

いや、本当は、喜ぶべきことなのだ。
生徒を鍛える。
鍛えて、私を乗り越えて行ってもらう。
それが私の使命なのだから。

M子との碁が、終わらないうちに、もう一人来た。
こちらは、おばさんだ。
還暦を過ぎている。
これが偶然なのだが、やはりM子と言う。
こちらは、三食昼寝付の身分でもあり、平日だろうが、
午前だろうが、関係ない。
彼女は気が向くと、私のサロンへやって来る。

MM対決をさせようとしたら、小さい方のM子が帰ると言い出した。
弱いおばさんなんか、相手にしていられない。
とは言わないが、そう思っている節がある。
囲碁と限らず、上達のためには、上位者とやるのがいい。
下位者に勝ったところで、自慢にならないというわけだ。

生意気なやつめ・・・
仕方がない。
私が、おばさんM子の相手をすることにした。
そうしたら、彼女の質問攻めが始まった。
毎度のことなのである。

「囲碁教室の先生がですね・・・」
序盤の布石について、初級者向けの、独特の理論を展開したそうだ。
それについて、私の見解を伺いたいと、こういうことだ。

またかいな・・・
少々うんざりしている。
他の先生の教えに、疑問があると、私のところにやって来るのだ。

「とにかく四隅を取れ。それを広げて一ヶ所二十目にする。
そうすれば合計八十目だ。八十取れれば、負けるわけがない」
とその先生が言ったそうだ。

「相手が九十取ったら、負けますよ」
「取れますか?」
「取れますよ、簡単に。碁盤は広いんだから」
M子さん、疑いのまなこで、私を見る。
ならば、実際に見せてやらねばならない。

石を五つ置かせ、彼女に四隅を取らせ、私は中央部を制圧した。
戦いも起こらず、三十分で終局した。
少女M子は、この様子を眺めている。
帰ると言ったのに、気が変わったと見える。
特異な碁の行方が、気になるのであろう。

盤面を整え、地を数えてみる。
彼女は確かに、八十どころか、九十も取った。
しかし、私の方が、百を越えている。

「ね、白が勝つでしょ」
「・・・・・」
M子さん、憮然としている。
「碁は、そんな簡単なものじゃありません。戦いをやらずして、
上達することなど、あり得ません」
その先生の教えは、間違っている。
とも言いにくい。
だから、実戦をもって、わからせるよりない。
それでも彼女、なかなか、承服しないのだ。

彼女は、私のサロンに来る度にこぼす。
「なかなか上達しません」「勝てません」「もう九年もやってるのですが」
私は、指導者というよりも、愚痴の聞き役みたいなものだ。

「Mちゃんよ」
今日はたまたま、少女がいる。
これを利用しない手はない。

「碁をやってて、苦しいと思ったこと、あるかい」
「ないです」
「楽しいだろ」
「楽しいです」
「布石について、私が何か教えたっけ?」
「ほとんど教えてくれません」
「だよな。碁の本は、持ってるかい?」
「持ってません」

それだけ言ってもらえば、生き証人として、十分だ。
おばさんM子の方へ向き直って言った。
「この通りです。実戦で鍛えて、この子は、初段になりました」
「だって、子供は覚えが早いから・・・」
なおも反論する。

気の短い私は、半分怒りたくなっている。
「碁を習いに、何か所も通ったって、だめだ。先生は一人に絞りなさい。
本なんか、買い込むことはない。初歩の詰碁の本が、一冊あれば十分だ」
きつく言ってやりたいのだが、そうすると彼女は、
私のサロンから、去って行くだろう。
過去にも、そういう例があった。

少女の方は、このやりとりを尻目に、ノートを広げ、何か書いている。
「何やってんの?」
「英語の宿題です」
私の囲碁サロンを、自習室と勘違いしている。

どういう訳か、私のサロンには、変人が多く集まる。
「お前が変人だからだ」
はっきりと、こう言う人もいる。
その通りかもしれない。
「変人囲碁サロン」
名前も、こう変えた方が、よいのかもしれない。



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気づかされました

パトラッシュさん

彩々さん、
ありがとうございます。
私のサロンに欠けているもの、それは知的な会話でした。
皆さん、もう、好き勝手にやっているのです。

彩々さんに、一か月くらい、常駐して頂けたら、うんと雰囲気が変わると思います。
無理なら、一週間でも。
どうぞ、真剣にお考え下さい。
報酬、それが出せないんですねえ・・・
何しろ、貧乏サロンなものですから・・・

2015/07/19 08:37:08

きっとこれです!

彩々さん

パトさんのサロンに伺い損ねている
私ですが、二人のM子さんが羨ましいです。

好きな時、ふらっと来て、好きなように
時間を過ごし、好きな時、帰っていく。
まさしく、そこにパトさんがいらっしゃる
からこそ、それが出来るのではないかと
思います。

ウィキペディアにあるサロンの意味の
通りですよ。

*サロン(仏: salon)

フランス語で宮廷や貴族の邸宅を舞台にした社交界をサロンと呼んだ。主人(女主人である場合も多い)が、文化人、学者、作家らを招いて、知的な会話を楽しむ場であった。

2015/07/19 06:26:37

大丈夫です

パトラッシュさん

喜美さん、
見放された、なんてことは、ありません。
喜美さんを知る人は、皆、喜美さんを敬愛しています。
些事に固執せず、物事を、よく弁えられた方だと。

病院の場合は、仕方ないですね。
あちらにも、病状や処方など、正確に伝える責任がありますから。

喜美さん、何時までも元気で長生きをして下さい。
私達の、目標でもあるのですから。

2015/07/17 14:25:08

おばさん

喜美さん

そんなおばさん居ます
私の友達にはいません適当な大まかばかり 類は友よぶですから
パトさんが理詰めかな 私はめんどくさくて いい加減な人生を送りましたから 最も小母さんでもないし
世間で見放された大おばあですね
病院の検査結果 身内の若いものと行かないと駄目らしいです 老人は都合のいいことばかり覚えて帰るそうです
自分でも不思議ですけれど未だ生きています

2015/07/17 13:57:39

盤上の勝負は

パトラッシュさん

ばばたまさん、
勝負事はなんでも、力が拮抗しているのが面白いのでありまして、差がありますと、強者も弱者も、共に面白くありませんね。

囲碁は、オセロに少しは似たところもあります。
オセロが、ひっくり返すのに対し、囲碁の方は、取り上げて、自分の”収入”にしてしまうのです。
たくさん取ってやろうと、目の色を変えることになります。
ルールもそんなに難しくはありません。
将棋やマージャンをやった方なら、入門も比較的しやすいでしょう。
同じ盤上の遊戯ですから。

2015/07/17 13:21:54

本望です

パトラッシュさん

うきふねさん、
皆さん人生経験が豊富であり、(それはお顔の皮が、少々厚くなっていることでもあり)なかなか、
一筋縄ではまいりません。
私は、苦手であります。
しかし、どういう訳か、いらっしゃるのです。
おばさんの方々が。

小学生を相手にするようになってから、私の「気」は、少し長くなりました。
でも、世間の標準よりは、短いと思います。

閑居堂金物店、お読み頂きまして、ありがとうございました。
大笑いして下さり、本望です。
私の本を読んで、欝に陥ったりされると、私も困るものですから・・・

2015/07/17 13:15:30

囲碁はさっぱり

さん

将棋は息子のために勉強したこともありますが、白黒のゲームはオセロぐらいしか・・・
やはりレベルが違い過ぎるとリズムが狂ってイライラします。まさに昨日の麻雀がそうでした。ストレス発散に行ってるのにストレス抱えて帰ってきたしだいです。

2015/07/17 12:27:35

こんにちは

うきふねさん

おばさんは(一部の(^o^))扱い難いことでしょう。
>気の短い私は、半分怒りたくなっている。
気の短い方が囲碁の先生だなんて不思議です。
本当は長いのでしょう?
「閑居堂・・」読み終わりました。
パトさんのご著書を大笑いして読んで
すみません(^_^.)

2015/07/17 12:11:09

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