メニュー

最新の記事

一覧を見る>>

テーマ

カレンダー

月別

パトラッシュが駆ける!

録り逃がしたり犯人を 

2013年09月27日 ナビトモブログ記事
テーマ:テーマ無し

「こんにちはー」
ドアが開き、女性の声がしたので、私は、あわてて飛び起きた。
何時も、こうなのだ。
客が居ない時は、囲碁サロンの奥の、衝立の陰で、ごろ寝をしている。
あるいは、パソコンをやっているかの、どちらかだ。

私の顔を見るや、女性が一礼をした。
丁寧だ。
だから、囲碁の客だろうと思った。
教えを乞うとなれば、人間は自然に、姿勢が低くなる。

「警察の者です」
女性が、紋章の入った、手帳のようなものを、見せたので、少しのけぞった。
しかし、狼狽えることはない。
私も今や、自信というものがある。

車の運転は止めたから、もう、違法駐車を、摘発されることもない。
税金も、公共料金も、真面目に払い、滞納はない。
タバコは吸わないから、ポイ捨てもしない。
法律に反することは、何一つやっていない。
そのつもりだ。
裸の女性の絵を、持ってはいるけれど、それは、
猥褻図画には当たらないと思う。
いざとなったら「これは芸術だ」と、言い張るつもりだ。

「T署の刑事課の者です。実は先日、この道で、引ったくり事件がありまして」
何のことはない、聞き込みであった。
「何処で?」
「すぐそこです」

女性の刑事は珍しい。
体格も立派だ。
格闘技をやらせたら、さぞ強いであろう。

「お宅様の防犯カメラが、目に入りました。録画しておいででしょうか」
「はい」
「見せて頂けないでしょうか」
「おやすい御用です」

防犯カメラを設置したのは、夏の前であった。
私は、サロンの奥に、机と本棚を置き、そこを書斎としている。
引出しには、大事な書類がある。
ネットで使う、暗証番号などもある。
無人となる夜間に、窓ガラスを破り、侵入されでもすると、厄介だ。
かねがね、防犯カメラを、付けてやろうと思っていた。

その矢先に、隣りの酒屋が、やけに目立つカメラを、
建物の外壁に取り付けた。
ご丁寧に「防犯カメラ作動中」の、張り紙まである
「立派なもんだね」
「いや、実はね・・・」
酒屋が、笑いつつ、あれはダミーなんだと告白した。

夜中に、自動販売機の陰で、立小便をするのが居るそうだ。
カメラが見えれば、少しは気が咎めるだろうと、その抑止効果に、
期待している。
しかし、ダミーは所詮ダミー、言って見れば、張子の虎ではないか。
どうせ置くからには、それは、本物の虎の方が良い。

私は、業者には頼まず、自力での設置を試みた。
ヨドバシカメラに行き、買って来たそれを、店頭の、
日よけテントの、内側に付けた。
やってみれば、至極簡単だ。
隣りの酒屋のように、カメラが目立つわけではない。
しかし、しっかりと道路を睨み、録った映像と音声を、屋内の受信器へ送ってくれる。
大したものだ。
今時は、無線送受なのである。

「事件は、一昨夜のことです」
「大丈夫、しっかり録画してあります」
私のカメラが、社会のために、役立つ時が来た。
もう、うれしくて、仕方ない。

映像の保存には、メモリーカードを用い、これが4ギガバイトある。
録画は夜間に限っているから、3日分くらいは、映っているはずだ。
そう思って探したのだが、事件のあった、一昨夜の10時台がない
何度探しても、見つからない。

タッチの差とは、このことだ。
11時以降の、録画しか残っていない。
メモリーは、上書きされるからだ。
例えば、昨日今日の録画が多いと、一昨日のそれは、
入れ替わりに、消されてしまう。
カメラは、センサーによって作動する。
人が多く通ると、それを几帳面に感知し、全部録画してしまう。
その分、メモリーを食う。
過去録が、順に消えて行く。
そう言う理屈だ。

「12時ごろ、私達が、何度もここを、行き来しましたからね」
女性刑事さん、残念そうだ。
皮肉なことに、駆け付けた警察官が、右往左往したせいで、肝心の、
犯人の映る部分が、消えてしまったことになる。

いや、そうではない。
刑事さんの来るのが、遅かったのだ。
昨日来てくれれば、まだ、メモリーに残っていたはずだ。
逃げる犯人の、その姿がである。

「遅い」
刑事さんに言ってやりたいけれど、彼らだって、忙しいのであろう。
これが殺人事件ならともかく、単なる物取りだ。
警察の威信にかけての、大捜査とは、行くまい。

もう一つ、私のカメラが、目立たなかったこともある。
酒屋のように、目立つ位置であったなら、刑事さんも気づいて、
もっと、早く来たかもしれない。

犯人逮捕のチャンスを、逸してしまった。
実にもう、残念でならない。
私は今や、社会のために、余りの人生を役立てたいと思っている。
その千載一遇の好機が、潰えてしまった。

しかし、挫けてはならない。
まだ先は長い。
私の防犯活動は、始まったばかりだ。

犯行は、繰り返されるとも言われる。
犯人が味を占め、柳の下において、二匹目の泥鰌を狙う可能性がある。
十分にある。
私のカメラの、役立つ日が、きっと来ると思っている。

おっといけない。
女性刑事さんの、名刺をもらうのを、忘れてしまった。



拍手する


コメントをするにはログインが必要です

虎視眈々と

パトラッシュさん

二匹目の泥鰌を、捕まえてやろうと、狙っています。
いや、一匹目もまだでした。
取り逃がしてしまいましたので。

2013/10/01 13:09:50

防犯カメラ

トパーズさん

折角設置した防犯カメラ、一度は陽の目を
見させてやりたいですね。犯人がつかまらなければ
まだ、チャンスはあります!

2013/10/01 11:07:58

抑止効果

パトラッシュさん

記憶容量を増やせば、録画の量も増えます。
そうしたいと思っています。
まさか、こんなに早く、カメラの効果があるとは、思いませんでしたので、油断していました。

街には、防犯カメラが増えていますね。
いつの間にか、撮られていて、気持のよくない面もありますが、犯罪の抑止と、捜査の進展に効果があるなら、我慢すべきかなと、こう思っています。

2013/09/29 08:30:36

肝心要

我太郎さん

えてしてこうなり易いものですね
ゆえに余計悔しい
機械音痴ゆえ分かりませんが、記憶容量は増やせないんでしょうか
増やしても上書のタイミングが悪いと同じ事が起きるか
我がことでこうなると無念ですよね
それにしても、自分がどこでどう撮られているか分からない時代になりました

2013/09/29 07:51:37

PR







上部へ