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パトラッシュが駆ける!

禁煙に頓挫の夏の暑さかな 

2013年09月20日 ナビトモブログ記事
テーマ:テーマ無し

「慶介さんに会いました。ちょうど、C医院から、出て来たところで」
「あいつが?・・・何処か悪いのか?」
「病気じゃないんです。『実は、禁煙外来です』って」
「自分じゃ止められないから、医者頼みか。まあ、決心しただけ、よしとしようか」
「大家さんには、しばらく、黙っててくれって」
「どうして?」
「成功してから、あっと言わせたいんでしょ」
「さあ、どうかな・・・失敗した時に、合わす顔が、ないからかもしれない」

慶介は、ある食品スーパーの店長をやっている。
年収はそこそこ、あるはずだから、マンションでも買えばいいのに、
何が気に入ったのか、私の貸家に住みつき、もう長いことになる。
四十に近いのに、嫁さんはまだだ。

いくら大家でも、入居者に対し、言えないことがある。
「嫁さんをもらえ」と「タバコをやめろ」だ。
「町内のYが死んだ。去年にはSも死んだ。どっちもタバコが好きだった」
遠まわしに、タバコの害を聞かせるくらいだ。

それでも、慶介が、禁煙をする気になった。
「親の小言と冷や酒は、後からじわじわ効いて来る」と言われる。
私は親ではないけれど、少しは“小言“に、効き目があったのかもしれない。

それが夏に入る、前のことであった。
その一月後に、妻が尋ねたら「本数が、大分減りました」と答えたそうだ。
徐々に喫煙量を減らす・・・
そう言う方針のようだ。
しかし、私はその「漸減作戦」の、失敗例を見ている。

死んだアリナミンだ。
「日に5本しか、吸わなくなりました」
いかにも、禁煙のゴールが、近そうなことを、言っていた。
しかし、0本に達するどころか、そこからまた、本数が増えて行った。
だから、減ったと言って、喜んではいけない。
禁煙にも、リバウンドはあるのだから。

慶介の場合は、薬を併用しているらしい。
しかも、医者が付いて、指導している。
そこに、アリナミンとの、違いがある。
あるはずだ。
あってほしいと思っていた。

 * * *

N男が、私のサロンに来ては、長居をして行く。
碁が終わっても、帰らずに、テレビを見て行く。
今時信じられないことだが、彼の家には、テレビがない。
母親の教育方針で、そうなっているようだ。
N男は、小学五年生であり、その母と二人で、マンションに暮らしている。

「もっと離れて見ろよ」
何時も、言ってやる。
今のテレビは、画面が大きいのに、すぐ近くで見ようとするからだ。
「先生も昔、映画が好きでな、よく行った。
映画館で一番空いているのは、前の方だろ。
最前列なんか、たいてい空いている。特等席だ。
そう思って見ているうちに、とうとう近眼になった」

これ、本当なのである。
私は小学生の時は、両目とも1・2であった。
それが中学に入り、次第に悪くなり、二年生になった頃から、
眼鏡をかけねばならなくなった。
嫌でたまらなかったが、先生からそう言われ、仕方がなかった。

映画の他にも、心当たりがあった。
ヒマさえあれば、本を読んでいた。
貸本屋で借りた、小説である。
講談本なんてのがあった。
戦記物なんかも、好きであった。

寝ながら読む。
これも良くなかったと見え、乱視まで加わってしまった。
なるべく本は、読まないようにしよう・・・
子供心に、決意を固めたこともあった。
しかし、長続きしない。
つい、読んでしまうのである。

 * * *

「タバコのにおいがします」
「しようのない奴め。元の木阿弥になったか」
「禁煙って、そんなに難しいの?」
「ニコチン中毒ってえのは、かなりのものらしい。しかし、
男が一旦決心したからには、やり遂げねばいけない」

慶介のチャレンジは、あえなく、頓挫したようだ。
あれから三か月。
一時少なくなったものの、その喫煙量は、また元に戻ったようだ。

当人は気遣って、換気扇の下で吸うらしいが、タバコ匂いは強い。
外に流れ、軒下を通る者の鼻に届く。
知らぬは当人ばかりであり、家主には、とうに、バレバレなのである。
妻と会っても、挨拶もそこそこに、逃げて行くそうだ。
武士の情け、可哀想だから、私は、何も言わないでいる。
 
 * * *

星を見ていると、近眼が治ると聞いたことがある。
そこで中学生の私は、せっせと夜空を仰いだものだ。
しかし、ただ、上を見ているのは辛い。
ただでさえ、私は、飽きやすい性質(たち)だ。
10分も経つと、もううんざりする。
この方法は、長続きしなかった。

本が目に悪い。
それなら、耳を使おう。
ラジオばかり聞いていた一時期もあった。
しかし、つまらない。
内容の濃さにおいて、本に勝るような、ラジオ番組はなかった。

私はしまいに、開き直っていた。
私から、本を取ったら、何も残らない。
目を悪くするか、面白くもない人生を歩むか・・・
それはもう、本を取るよりない。
不思議なことに、その後、近視は進行しなくなった。

人生には、何かを犠牲にしなければ、得られないものがある。
慶介のタバコもそうだ。
身体によくないとしても、仕方ない。
彼が、その人生を決めれば、いいのである。



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人それぞれ

パトラッシュさん

喜美さんの御父上は、長命だったのですね。
煙にも、強かったのでしょう。
個人差があるようです。

大の大人のやることですから、他人がとやかく言うことも、ありませんね。

2013/09/20 20:38:41

寿命

喜美さん

タバコ好きな人には中々やめられないらしいのね 私の父が凄くたばこ好きで晩年私たちがいくら言っても駄目
自分で私の体は煙突掃除しても中々
綺麗にならないなと 笑って吸っていました ピース そんな名前のたばこでしたか忘れましたけれど それでも84歳まで生きました
其のころにしては長生きでした

2013/09/20 14:49:32

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