+++社長さんの話は、面白いわーーー」
「いやあ、こんな話は面白くないよ。もっとバレエと
ベッドの話をしようよ」
31.女の悩み
「大学を出て派遣で仕事をしてますけれど、まともな
ところへ勤めずにバレエやお芝居ばかりに精を出す
から、親が業を煮やしました。来月から仕送りをしな
いから国へ帰って来いと言うのです。芸術を理解しな
い人は困ります」
「ハハアーー、越後の親はクラシック派だな。結婚さ
せる積りなんだ」
「このままだと、国に帰らなくてはならなくなりま
した。 でもバレエを続けたいし、大手の劇団のオーデ
イションも受けたいしーーー」
「なるほどーーー困ったねえ」
「好きなものを諦めるのが残念よ」
「若い時に夢があっても、大人になったら諦めるもの
だよーーー」
「ええ、それが大人になるって事かもーー。 でも、人
は何の為に生まれて来たのでしょう? 」
「そうだねえ、生きる為に生まれてきたーーーかな?」
「そうでしょうかーーー?」
「さあ、僕は好きな販売の仕事をしていてそれなりに
幸せだし、貴女は好きなバレエやお芝居ばかりして
いる。やりたい事をするために、生まれて来たのかも
知れないね」
「そうあって欲しわ。それだのに、経済という下等な
事で諦めなければならないなんてーーー我慢出来な
いわ。生きていないのと同じよ」
「経済が下等かなあーー」
「下等でなくても、私には下のランクよ。それにーー
ー歳がいってから、特に女の場合だけど、貴方は何を
しましたかと問われて、「子育て」以外に返す言葉が
ないのは寂しいわ」
「なるほどーーー貴方は「バレエに恋をしました」
と、返せる言葉をこしらえるのに力一杯やっている。
手段がパトロンであっても、利用出来るものは何でも
利用するかーーー?」
「ねえ、そう思うでしょう?」
「真剣に生きているんだね。でも、少し潔癖すぎるん
じゃないかなーーー」
「そうかも知れない。でも、そう思う一方で、女には
実際的な悩みがあるんですよ。年齢です。これはどう
しようもないわ。子供を生む適齢期は限られている
し、歳をとってしまうと男の人に持てなくなるしー
ーー」
「うむーーー」
(つづく)
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