+++五十八は「分別のある」魅力的なパパさんと映
るらしい。悪女好みの私にぴったりのパートナーに思
えた。
8.
所帯を持ったら、専業主婦でなくてもお小遣いは制
限されるし、子供が出来たら、美味しいものを食べ歩
きしたり高級なホテルには二度と泊まれない、と考え
るのだろうか。ならばその前にーーーと駆け込みを考
えるのが、肉食系女の行動パターンであるらしい。
若い女が誰しもこのような悪女とは思わないが、昨
今は目を剥く程珍しい事ではない。結婚前に精々青春
を楽しんで置きたいし、他の男も味わっておきたい、
というカレーライスとライスカレーの味の違いを食べ
比べる程度の、極めて単純な動機である。
例え彼に感づかれても、なに、女はずるいから、こ
う弁解するに違いない:
「何せ相手は年寄りの干物だったから、全然人畜無害
と思ったのよ。そう思ったのに、「年の功」というか
邪悪な口に乗せられて、二00五年産のワインを丸々
一本飲まされちゃって。
「ハッと気づいたら強引にホテルに連れ込まれーー
ー、無論、激しく抵抗して逃げようと思ったのよ!
でも心配無用よ、アソコはパンツの中でテントさえ張
れない「フニャチン」だったから、やっぱり正真正銘
人畜無害だったわ。被害者は私の方よね!」
責任は一切五十八へ押し付けておけばよいから、バ
レても女は死刑までにはなるまい。ただ、それにして
も見も知らぬとはいえ彼氏に私は悪い気がした。更に
女の強烈な毒気にも少々辟易して、最終的に丁寧にお
断りをしたのだが、メールの最後にこう添え書きし
た:
「そんなに退屈なら、まもなくお正月だから貴女
がロンドンまで出向いたらどうか?」
さて、この肉食系悪女には後日談がある。
私のアドバイスに従って、正月休みを利用して女は
ロンドンの彼氏の元へ四日間遊びに行ったのである。
不倫をやめたから、やっぱり殊勝な処があるんだなと
感心していたら、帰国後早々メールでこんな報告を寄
越した:
「ロンドンへ行って来たわさ。ウブなお坊ちゃんだ
から、アパートでメロメロにしてやっ たよ。昼間っ
から一日中抱きついて、私のテクで三日三晩ゴシゴシ
絞り取ってやったら、四日目にはサルみたいにキャッ
と悲鳴を上げた。
「ヤツはもう種無しブドウよ。湿り気も無くなってス
ーパードライになったから、先の半年ロンドンで浮気
なんか出来っこないわ。
「それはそうと、気が変わったら教えてね、私は何時
でも準備OK、リッツ・カールトンとモーゼルワイン
よ。私のメアドはちゃんとPCに保存しておいてね。必
ず駆け付けるから。それまでは、取り敢えず他で間に
合わせておくわ」
大笑いし、私はこの女をすっかり好きになり、メア
ドをPCにしっかり記憶した。干しブドウ同然になっ
て悲鳴を上げたロンドンの彼氏を気の毒に思いなが
ら、私は自分の胸を撫ぜ下ろした。 クリスマスイブに
高級ホテルの眺めの良い部屋で、元々発射する種の在
庫が少ない上、湿り気も乏しい六十七の年寄りだか
ら、カスまで絞られて危うくドライフラワーにされる
処だった。
(つづく)
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