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作品名 エライコッチャの話(4) 評価 評価(1)
タイトル エライコッチャの話(4)
投稿者 比呂よし 投稿日 2013/12/15 10:49:47

+++左右の目で、食い物を交互に一々
確認しているみたいである。本人は新種
の哲学を考えている積りらしいが、にわ
とりとの類似性を考えると、滑稽の中に
何か哀れを感じる。

4.耳から蒸気

どう見ても、女の方が一枚上のようだ。
「女とはそんなもの」と大概の男が、女
のおしゃべりをややもすれば揶揄するが、
実は間違っているのは男の方かも知れな
い。私は、西行にも山頭火にもなりたく
はないからだ。

 世の一般の男の例に漏れず、私もずっ
と「ながら族」専門であったが、ある時
やはりまた想う処があって、実験的に配
偶者のおしゃべりに「とことん」付き合
って見ようと思い立ったのである。これ
は大きな決断だった。

 それまでは、会社の昼休みに配偶者と
一緒にランチに出掛ける時、片手に必ず
その日の日経(=日本経済新聞)を持っ
て出掛けた。「食べながら」読む為であ
り、女のおしゃべりを「聴きながら」読
む為であった。
 殆ど結婚以来続いて来た、この長年の
習慣を中止してみたのである。聴くのに
「専念」する為に、手ぶらで出掛けるよ
うに、思い切って生活態度を改めた。

 やり方は徹底して、自宅でも一緒に居
る時には必ずソレを実行した。女がしゃ
べりかけると、読んでいた新聞をわきへ
置いて、「何だい?」とにこやかに笑顔
で応じて、先ず「怒っていない」のを証
明して見せてから、「聴く」のに専念す
る。
 それまでの「ながら族」を中止して、
「おしゃべり」へ正面から相対したのだ。

 相手のおしゃべりを残らず聴くのに、
当初はいらいらして耐えがたかった、確
かに。堂々巡りする部分も、多々あった
からだ。が、次第に慣れたから、人間は
修養が大切であるとつくづく思う。

 慣れたついでに、それまでの 「日経片
手に」やっていたウンとかスンの生返事の
代わりに、もっと積極的に相槌を打つこと
にした。

 ヘエッ!とか、ハアッ!とか言う。もっ
と若々しく女子高生風にウッソオ!とかも
混ぜて、いかにも甲斐甲斐しく開始したの
である。 時には変化を付けて、「ソラ エ
ライコッチャ!」の掛け声も工夫した。歌
舞伎で言えば、「成田屋ッ!」みたいなも
のと思えばよろしい。

 元気付けの掛け声は掛けるが、絶対に反
論したり批判をしない。これがコツで、お
しゃべりの腰を折らない為だ。このルール
を私は固く守った。 むしろ女の方へ賛美の
目を向けて、一言半句も聞き漏らすまい、
という姿勢を強調して拝聴する。

 従来とは打って変わった聴衆の、と言っ
てもたった私一人なのだが、様子に女は感
動した。これに勇気を得て、女はペロリと
舌で唇にひと湿りをくれるや、呂律(ろ
れつ)の運転も滑らかに、蒸気機関車みた
いにおしゃべりがばく進する。こんな時、
シュッシュッと鼻と耳から蒸気が出る感じ
がする。

(つづく)

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