++++命が尽きようとしているのを、本人はどの
ように自覚しているのだろうか。
(2)
母が突然布団の中から片手を差し出した時、私は
驚いてどう対処して良いか判らなかった。 干乾びて
茶色に見える皮膚は、油が抜けたようで、手の骨に
食い込んでいた。以前報道写真で見た、飢餓で割り
箸のように手足が細くなったアフリカの幼児を思い
出した。
骨ばった手を壊わさないように両手で包みなが
ら、「細くなったねえ」と私は言った。皮膚が張り
付いた母の顔には表情が無く、じっと私を見つめる
目は、不思議に殆ど瞬きをしなかった。
目が何かを訴え掛けているように見えた。 苦し
いのか、寂しいのか、迫る死を怖いと感じているの
か、判別が付きかねた。 それとも、あれこれ思い
煩う気力は衰え、ただボンヤリ私を眺めているだけ
なのかも知れない。
母の目を見返して、死んで行くのは貴方であって
私ではないーーー、だから一緒に付いて行って上げ
られないと心で応えた。そう応える以外に仕方が無
かった。
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