筆さんぽ

映画「幸せの黄色いハンカチ」の原作か? 

2024年02月11日 ナビトモブログ記事
テーマ:読書案内

過日ブログでご紹介した、コラムニスト・ボブ・グリーンの『チーズバーガーズ』を見つけた古書店で、これも愛読のピート・ハミルの『ニューヨーク・スケッチブック』(高見浩訳/河出文庫)も見つけた。

恋人との再会、友人との別れ、酒場のひととき。ごくふつうの日常の一瞬を絶妙な語り口でスケッチした作品である。
若いころは、これを持ち歩くほどの愛読者であった。

三十四編の短編とともに、巻末に「黄色いハンカチ」が収められている。これは、高倉健主演の映画『幸福の黄色いハンカチ』の原作であるといわれている。山田洋次監督は、この、わずか六ページの短編からイメージをふくらませて、この映画を作ったそうだ。
原作はこうである。

若い男女6人は、ニューヨークからフロリダ行きのバスに乗った。バスにはヴィンゴという男が乗り合わせていた。ヴィンゴは「終始唇の内側をかみつづけており、自分だけの繭のような沈黙の世界にとじこもっていた」。「あの男はいったいどういう人なのだろう」と「若者たちの胸に好奇心が芽生えた」。

若者のなかの一人の娘がヴィンゴに話しかけた。ヴィンゴは、この四年間服役したニューヨークの刑務所から出所したばかりで、これからブランズウィックのわが家にもどるところだという。「奥さんはいるの?」。ヴィンゴは刑務所で奥さんに手紙を書いた。「だれかいい男を見つけて、そいつと幸せな家庭を持って、おれのことは忘れてくれ」。

保釈が近づくとこう書いた。「おまえが別の男と暮らしているのなら、おれは邪魔しない、もし、おれを迎え入れてくれるなら、町の入口の、でかいオークの木の枝に黄色いハンカチを一枚結び付けておいてくれ」

司馬遼太郎は『坂の上の雲』のなかで言う。
 「世人は悪いことをせねば善人だと思うているが、それは間違いだ。いくら悪人だって、悪いことをする機会が来なければ悪いことをするものではない。僕だって、今まで悪いことをしないのは、機会がないからだ」

 若者たちはヴィンゴと一体になりオークの木を待った。
 ブランズウィックが見えてくると「若者たちが全員、弾かれたように立ち上がった」。

 ヴィンゴは呆然とオークの木をながめていた。「大木は黄色いハンカチで文字通り蔽われていた。その数、二十枚、三十枚、いや、数百枚はあっただろう。さながら歓迎の旗竿のように立っているオークの枝では、無数の黄色いハンカチが風にはためき、通り過ぎるバスの窓から見ると、それは一瞬黄色に燃えたつ陽炎のように映った。

年老いた前科者は、若者たちの歓呼につつまれてゆっくりと立ちあがり、「身を引きしめて前部の乗降口に歩みよった。彼は家路についたのだ」



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