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まっすぐな葱のおいしさ
2024年01月30日
テーマ:読書案内
寒い冬の晩、白葱をたっぷり使った鍋料理などがおいしい。葱は高級料理にも使われるが、江戸時代からお惣菜の食材として欠かせない。時期にもよるが、安くて栄養満点の野菜である。
芥川龍之介の作品に『葱』(ちくま文庫/芥川龍之介全集3)という短編がある。
主人公のお君(オキミ)さんはカフェのウエイトレス。ハンサムでハイカラな若いお客の田中君に恋をし、やっと念願のデートが叶う。
お君さんは紫紺のお召のコートにクリーム色の肩掛けをして、そわそわと待ち合わせの場所へ。田中君は.鍔広の帽子を目深くかぶって洋銀の握りの細い杖をもち、かすかに香水の匂いまでさせている。
見るものすべてが美しく夢心地に思えるデートの最中、ちいさな一軒の八百屋さんの前を通りかかった。お君さんがふと目をやると、葱の山のなかに立っている「一束四銭」の札が見える。物価高のこの時世、一束四銭という葱はめったにない。
お君さんは田中くんを残し、思わず二束の葱を買ってしまう。葱の束をかかえたお君さんが戻ってくると、「実生活の如く辛辣な、眼に滲む如き葱の匂い」が田中くんの鼻を強く打つ。
これからのデートの予定を練っていた田中君は、目論見が外れて世にも情けない目つき。対照的にお君さんは、二束八銭の葱を下げて、涼しい目のなかにうれしそうな微笑を踊らせる。
お君さんの、葱のようにまっすぐな気持ちがさわやかである。
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