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太宰治といっしょに泣ける話
2024年01月31日
テーマ:読書案内
太宰治に『黄金風景』という短編がある。
主人公は子どものころ、家に奉公にきていたお手伝いさんをよくいじめた。なかでもお慶というお手伝いさんに「非道の言葉を投げつけて」、ときには足蹴にして、ことさらひどくあたった。
主人公が大人になって故郷を離れ、貧乏で苦しい生活をしているとき、今はお慶の夫だという巡査に出会う。
巡査はお慶といっしょに挨拶に来たいという。自分の過去の悪行が思い出され、気まずい思いをしていると、三日後、巡査はお慶と子どもを連れて現れる。主人公はいたたまれず、用事があるといって彼らを追い返し、あてもなく町を歩き回る。
やがて浜辺に出ると、お慶一家が「のどかに海に石の投げっこをして笑いに興じている。声がここまで聞こえてくる」。
お慶の夫の話し声が聞こえる。「頭の良さそうな方じゃないか。あのひとは、いまに偉くなるぞ」
お慶は何とこたえるのだろうか。
「そうですとも、あの方は、お小さいときからひとり変わって居られた。目下の者にもそれは親切に、目をかけて下すった」。
お慶の誇らしげな声に主人公は、その場で立ったまま泣いた。
「黄金風景」とは、主人公のやさしさだけを美しい記憶として大切にしているお慶の心の風景だろうか。それは、輝きと美しさ、そして希少さにおいては、黄金にまさる価値をもっているにちがいない。
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