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読書日記
『夜叉桜』 <旧>読書日記1434
2023年09月07日
テーマ:<旧>読書日記
あさのあつこ『夜叉桜』光文社文庫
「弥勒の月」の同心・木暮信次郎と岡引・伊佐治の二人が女郎が次々と殺される事件を追う。二人は殺された女の一人と小間物商・遠野屋との細い繋がりをつかむ。ここで遠野屋・清之助が登場し3人は再びあいまみえる。
しかし、事件自体はどうにも解決への道がつかない。一方で清之助には「過去」が現れ、過去の仕事を実の兄から求められる。兄は父に逆らい清之助を解放してくれた恩人であるけれど、どうやら父と同じ道を歩み出した様だ。清之助は兄の頼みを断り、無事に家に戻ってくる。
そして今度は3人の死体が発見される。1人は男で2人は女。女の内の一人は今までの女郎と同じ人たちで喉が切られている。男は懐剣で刺され、もう一人の女は男の脇差しで刺されているように見える。この事態はいったい何なのか。しかも、脇差しで刺された女は信次郎の顔見知りの女郎であった。
信次郎はこの謎を解き、女郎殺しを裏で操っていた商人の黒田屋由助を捉えるのであるが、この間に赤ん坊が一人遠野屋に預けられ清之助はその子おこまを育てることになる。
というのが、粗筋であるが、本書の魅力はその合間合間に語られる人間の気持ちにある。終盤近く伊三次は考える。「弥勒にも夜叉にもなれるのが人という生き物なのだ。ときに弥勒、ときに夜叉。いや……仏と鬼との真ん中に人はいる。それはまた、仏でもなく、鬼でもなく、仏にもなれず、鬼にもなれず、人は人としてこの世に生きねばならぬということなのかもしれない」と。
前巻に比べて、信次郎の性格は少し柔らかくなり、清之助も少し変化し、伊三次がこの二人を見る目も柔らかくなっている。これ以降、どのようになっていくのか・・あさのあつこの紡ぎ出すこの物語世界を楽しみたく思う。
(2021年3月6日読了)
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