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「しろがねの葉」〜暗闇が自由にしてくれた 

2023年07月20日 ナビトモブログ記事
テーマ:本を読む

作家千早茜の直木賞作品「しろがねの葉」は,
幕末の頃、「石見銀山」で生きた女性ウメを主人公にして、三人の男衆と織りなす物語だ。
まるでタイムスリップしたような感覚で読み進んだ。

貧しさに堪えかねたウメの家族は、新境地の銀山を目指し村を出た。だが、銀山までたどり着けたのは幼いウメだけだった。
そこで、銀山一番の山師・嘉兵衛と出会い
ウメのすべてが始まっていく。

銀を取るために掘った穴
〜坑道を間歩(まぶ)と言うが、
その中は暗くて狭い。幼い頃から暗闇が好きだったウメは、よく目も見えたので重宝がられた。
そして、いつしか、嘉兵衛と一緒に間歩に入り手伝いをすることが、何よりの喜びに変わっていく。

嘉兵衛と過ごしていくうちに、
自分の名前が花の名であることを知り、
食べれるもの、腹を下すもの、怪我を癒すもの以外知らなかった草木の名前も知っていく。

それは、まるで白黒の世界を生きてきたようなウメにとって、
ぽつり、ぽつりと自分の世界に色が付くような彩りを感じる日々だった。

その後、大人になり、隼人や龍という愛する人が出来ても
ウメの心の中には、嘉兵衛へのでっかい底無しの愛が存在する。共に銀を追う同志でもあり、自分のこの世の生に色を与えてくれた人を誰が忘れられようか!

間歩(まぶ)で仕事をしていれば、やがて鉱山の毒で
男たちには宿命的な死がやってくる。
それでも人は銀を目指し、誰一人として離れようとしない。
隼人も龍も同じだ。その道を自ら選び、銀山の中で死んでいく。ウメは傍らで受け止めるしかない。

「銀がなくなっても、光る何かを人は探す。
それで毒を蓄えても、輝きが無くなっては人は生きていけない。」
これは物語の中で、最後に龍が語ってくれる言葉だ。

ウメにとって人生で光るもののすべての中心に存在するのは、嘉兵衛だった。

過酷な環境下での「生」の輝きを
男性作家の視点とは違った女性目線で描いた作品だ。

当時の女性の生き方も悲しみが漂う。
自分の体を他者に預け、他者との行為の毒に冒され死んでいく悲しみの人生か
銀の毒で命絶える男と共に生きる人生の二つに一つしかない。

銀山の女は一生のうちに三度嫁ぎ、三度嘆く。
それは、銀の毒が女の愛するものを三度奪うということだ。銀山物語は決して男たちだけの物語ではない。



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