読書日記

『占』 <旧>読書日記1353 

2023年03月21日 ナビトモブログ記事
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木内昇『占』新潮社(図書館)

作品の舞台は、「職業婦人」という言葉が聞かれるようになった一方、まだまだ家や世間に縛られた、大正から昭和にかけての日本。女性にとって、息苦しさと自由がないまぜになった時代。ある意味、現代の問題にも繋がるかもしれないが、この時代設定は絶妙である。

この本では人生の節目でのあれこれを占いに託そうとする女性たちが描かれる。主人公はすべて女性。彼女たちは年齢もはっきりせず、たまに姓がわかるもののほとんどは名前だけで語られる。結婚していたり未婚であったり、職を持っている女性もあるが、いわゆる専業主婦もいる。とは言え、占う側に回る人生も描かれているし、占いとは直接関係のない幽霊譚もある。全部で7つの独立した短編集であるが、登場人物が微妙に重なって現れたりもする。読み終わったあとで、思わず、各短編の人物を紙に書き出して整理したくらいだ。

7編はいずれも小説新潮に掲載されたもので「時追町の卜い家」「山伏村の千里眼」「頓田街聞奇館」「深山町の双六堂」「宵町祠の喰い師」「鷺行町の朝生屋」「北壁町の読心術」という題である。

「時追町の卜い家」の主人公は桐子という翻訳家。一人で暮らしているが足繁く通ってくる伊助という男の本心を知りたくて占いに頼る。
「山伏村の千里眼」の主人公は岩下杣子。山深い村に暮らしていたが、厄介払いで都会の叔母のもとに住む。美女の集まるカフェでレジ係を務めるが雇われた理由は目立たない顔と性格だから。叔母の家は近所の癒やし処の様になっていたが、いつの間にかよく当たる占い師という位置づけになってしまう。
「頓田街聞奇館」の主人公は友枝、翻訳家の桐子に英語を習っているが、桐子の家に飾られている桐子の祖父・飛田和作の写真が気になって、聞奇という口寄せ屋に植物学者であったという飛田和作の降霊を依頼し、その性格と話しぶりが予想とはまったく違うので、次にその妻であった飛田轍(ワダチ)を頼むが、この妻は実は高名な作家の轍作和であったことが判るという話。
「深山町の双六堂」は平凡なかたいで平凡な主婦の政子が自分の位置を知る為に近所の人などの評価表を作るようになるが、それがひょんなことから評判になり、やがて、自分の夫がその同僚の妻で画家でもある島岡富久子と不倫関係にあるという噂を聞き、その妻のもとに押しかける。
「宵町祠の喰い師」の主人公は綾子。名の知れた大工頭であった父の死後、父の作った「深見組」を組のベテラン遠山から頼まれて組をまとめるようになるが、森崎というだらしない大工の処遇に迷う。
鷺行町の朝生屋は大正期には珍しい二階家に住む恵子。ある日突然、庭に迷い込んできた少年ゆうたに「いつでも遊びにおいで」と言ったことから始まる、幽霊奇譚。この作品だけは少し異色である。
「北壁町の読心術」の主人公は佐代。画家の富久子に絵を習うが、富久子の家に出入りする画商の高岡武史郎と相思相愛になるが、高岡武史郎が以前婚約していたことを知って疑心暗鬼になり失恋する。もう一度会いたいと、二人で通ったカフェに何回も行くが、そのカフェのレジ係(杣子)から忠告を受け、わだかまりが溶ける。

『占』の主人公たちは最後、自分の足で一歩を踏み出そうとする。「占いで何を言われても、本当かどうかは証明のしようがない。でも結局、それを信じるか信じないかを決めるのは自分の気持ち。じつは自分で行く方向を決めているところもある。
(2020年7月25日読了)



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