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『ガイア伝説』 <旧>読書日記1351 

2023年03月17日 ナビトモブログ記事
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半村良『ガイア伝説』集英社文庫(図書館)

図書館で借りたものであるが、本書の出版は2001年2月。

表紙裏には「ガイアとは、地球生命圏全体を支配するものの象徴である。人間が急激に発展させた電磁波の利用により、動植物は本来の能力に重大な障害を起こし始めていた。一刻も早く問題を解決しなければならない。ガイアに選ばれし人間は、「感応」のみで意志を通じあうようになる。草木はいずれも「感応」だけで進化してきたのだ。新生命体は果たして実現できるのか…。著者の新境地が展開される異色作。」とあるし、巻末解説の原山達郎氏も開設の冒頭に「ガイア伝説」は、これまで発表された半村作品におけるSFや伝奇小説の系譜とはまるで異なった、新しいスタイルの小説である、と書いてあるのだが、読了して見ると一体どこが新境地であり、新しいスタイルなのか疑問である。

つまり、冒頭に平凡な人物が呈示され、その人物が何らかの謎を追って深入りするうちに、新たな世界が開かれ、謎の一味なり団体なりあるいは個人に惹かれその一味を擁護する側に回る。という半村作品の基本パターンが踏襲され、この新たな世界なり世界観が展開していく様が半村作品では高揚感を与えてくれるのである。

ここで題名になっているガイアとはギリシア神話に登場する女神の1人であり、「神統記」によればカオスから生まれ、世界の始まりの時から存在した原初神の1人である。地母神とされるが、ガイアは天をも内包した世界そのものであり、文字通りの大地とは違う存在である。

そして、この小説はジェームズ・ラブロックという学者が1960年代に仮説が提唱した「ガイア理論」を背景としている。端的に言えば「ガイア理論」とは 地球と生物が相互に影響しあうことで、地球がまるでひとつの生き物のように、自己調節システムを備えるとする理論であり、発表当初は否定的反応が多く、「合目的論」(=非科学的)というレッテルを貼られたが、多くの批判・反論に答える内に次第に概念が理解され1990年代以降には公式に認められたと言える。

そして、この作品は発行年代から考えると、ちょうど「ガイア理論」が人口に膾炙する様になった時代のものであり、ガイア理論の一つの帰結である「環境を不安定にする生命は長く栄えることができず、そのことが地球にさらなる「変化」をもたらし、環境が安定するまでそのサイクルが続いていく」を使ったものである。まあ、人類による環境変化が過大になればガイアは環境を調節する、すなわち人類という種を滅ぼすという帰結をも伴うこの仮説をいち早く作品に取り入れたとも言えよう。

発表からおよそ20年が経って、地球温暖化による気象異常が顕著になっていることは論を待つまい。それが人類滅亡に至るかどうかは不明であるけれど、緊急に対策行動を行わなければ成らないと言う切迫感を感じる人は増えていると思う。

ただ、本書の読後感としては、やや冗長であった。最後の3章、ページにして70ページほどはただの繰り返しであり余分であると感じた。

最後に「乂丫」について。本書中に出ていた豆知識であるが、この字はれっきとした漢字である。乂はガイと読み「草を刈る」の意、丫はアと読んで「ふたまた。木のまた」の意。合わせれば読みはガイアとなる。
(2020年7月20日読了)



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