読書日記

『おやこ』 <旧>読書日記1342 

2023年02月27日 ナビトモブログ記事
テーマ:<旧>読書日記

細谷正充・編『おやこ』朝日文庫

本書は編者によるアンソロジーで時代小説の中から「親子」をテーマにした短編を集めたもの。収録されているのは、池波正太郎「つるつる」、梶よう子「二輪草」、杉本苑子「仲蔵ととその母」、竹田真砂子「木戸前のあの子」、畠中恵「はじめての」、山本一力「泣き笑い」、山本周五郎「いさましい話」の7編。

「つるつる」は若君のご学友に選ばれた将来有望な若者が、円形脱毛症にかかってしまい、若君に馬鹿にされたことで爆発。若君を殴ってしまい、結果、狂人である故、生涯妻帯を許さずと蟄居させられる。だが、その父は「ようやった」と褒め、数年後さらに事件を起こした息子は脱藩する。さらに14年後、子は大工となって父親と久しぶりに会う、という話。

「二輪草」は著者の御薬園同心シリーズの中の一篇で、御薬園でトリカブトが抜かれていることを巡るミステリ。この中で養生所に入った近藤左門という浪人とその一子平太との親子の絆が語られる。

「仲蔵ととその母」は歌舞伎の名跡として知られて居るその美貌から中村仲蔵と彼を養子にしたお俊の話。養親の長唄歌いの中山小十郎の跡継ぎとなるはずが、音痴の為に断念し訳者を目指す仲蔵が下積み役者としての苦労から大成するまでを描く。

「木戸前のあの子」は役者になれず市村座の木戸役者(呼び込み役)をしている三次と実のむすめのおきわとの行き違いを描く。娘から嫌われて悲哀を感じている三次であったが、いつも木戸前に佇む少女おつねを知ってひとときの幸せを感じる。

「はじめての」も著者の「しゃばけ」シリーズの中の一篇で、なじみの岡っ引きである日限の親分がお沙衣という娘を連れてくる。お沙衣によると、古田晶玄という目医者が怪しい話を騒ぎ立てているのだが、彼女の母のおたつが悪い目を治すため晶玄の話を信じてしまったという。晶玄の話は詐欺では無いかと疑った主人公の一太郎が病身をおして動き出す。

「泣き笑い」は子供の金太が盗みをしたために激怒した清吉は盗まれた子供の家に金太を連れて謝りに行く。そして、自分が子供の頃に同じように叱られた父親との関係あらためて思い返す、という話。

「いさましい話」は藩政改革を考える藩主の命で勘定奉行に就任した笈川玄一郎は国許に下る。が、武断的でもある国許では抵抗に遭いことはなかなかすすまない。偶然知り合った親子ほども年が違う作事奉行の津田庄右衛門との交流だけが救いであった。反発する藩士との決闘なども含めたいさましい話のあと、彼を疎ましく思う一派の罠にはまってしまい汚職の罪を問われることになる。

しかし、ことはあっけなく津田宗右衛門の「自分がやった」という自訴によって解決する。津田は家禄召し上げ上、追放という処分を受ける。事件のあと藩政改革は成るのであるがある日突然笈川玄一郎はさらに深い真相を妻から伝えられる。うむ、親子の話であった。
(2020年6月23日読了)



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