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カシアス
桜は死の香り
2017年06月17日
テーマ:旅の者(新潟・東京・姫路)
父は9年前、桜の季節に亡くなった。
当時、川崎の某病院に入院していた父は93歳、
医師から、いつ亡くなってもおかしくありません、
と告げられてから一月ほどたつ。
土日毎に新潟から新幹線に乗って病院に通い、
いい加減に決着をつけて欲しい、
とあらぬことを思わぬでもなかった。
4月初めの土曜日、いつもの如く病院に行く。
聴こえるはずの右耳に口を近づけ、
おとうさん、息子がきたよ、
新潟から新幹線にのって、来たぞ、というのだが、
はっきりとした反応がない。
うっすらと目を開け、頷くようにも見えるのだが、
息を大きくしているだけのような気もする。
何度もお父さん、お父さんと言うと、
少しはなれたところから、はい、と返事が聞こえる。
むこうのベットに寝ているお爺さんからの代返らしい。
妻が、 病院の庭に、桜が見事に咲いているから、
見せようと、五、六ほどの花がついた小枝を二本、
持ってきた。
(折るときはかなりな勇気が必要だったとか、)
枝を目の前にかざし、外は桜が満開だ。
家の前の公園の桜も、今、満開だ。
などと、見てきたように言うが・・・反応は今一。
翌日曜も病院に行き、手を握って話しかけるが、
握り返すこともない。
時折、目を開けて何かを、探すようなしぐさをするので、
顔をなでて、声を掛けてみるが、目だった反応はない。
少々疲れて、新潟に戻った。
二日後の火曜日、の昼頃、姉から、
今度こそ息を引き取りそうだ、 との連絡があり、
では、間違いなかろうと、
新潟から川崎の病院に向った。
途中、新幹線車中で、
病院に着いたら霊安室に来るように、
との姉からのメールを受ける。
夕方5時過ぎに病院に着き、
霊安室のドアを開けると、姉と義兄がいた。
部屋は、手前が8畳ほどの和室で、
奥に同じ広さのタイル敷きが続いている。
そこに、ストレッチャーがあり、
上に白い布に覆われた父がいた。
やがて、車が向えに来たとの連絡があり、
奥のドアを開けてストレッチャーを裏庭に押し出すと、
満開の桜が眩しい。
この花を楽しみに、今日まで持ちこたえたのだろうか。
時折花びらが舞い、父に降り注いで別れを告げる。
退院ならぬ退出だなと思いつつ、
車に乗せて、父の家に向かった。
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