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作品名 オケ老人 評価 評価評価評価評価評価(5)
タイトル 落語と見たり
投稿者 パトラッシュ 投稿日 2016/11/27 17:12:38

若い女性が、オーケストラへの入団を志しました。
行ってみたら、そこは、年寄りばかりの楽団でした。
「万老叢中若一点」とはこのこと。
老若のギャップにより、当然のように生じる、齟齬や軋轢。

この映画の冒頭、そのドタバタぶりを見た時、これは落語だ……
と思いました。
例えば「寅さん」や「釣りバカ」のようにです。
季節や場所、マドンナを替えつつ、定型化した笑いを振り撒く。
あれらは立派に落語でした。

回を重ねながらも、あれらが、見飽きられなかったのは、
演じる役者の個性が際立ち、演技力が優れていたからです。
落語も同じ。
ストーリーはもう、とっくに承知の上。
それでも面白い。
そこに芸があるからです。

それにしても、いやに取りとめがない。
滑稽噺にしても、もう少し落ち着きが欲しい。
年寄りの、緩慢や魯鈍を揶揄し、無理に笑いを取ろうとしている。
導入部では、そんな風に、見えなくもなかったのです。

しかし、意外な人物の登場を機に、ストーリーは変転します。
世界に知られた、外国人指揮者、これがひょんなことから、
名もない、アマチュアの楽団との関わりを持つ。
もちろん、そんなことは、現実にはありえない。
しかし、もしあったら、楽しいだろうな……と思わせる。
そこがまた、物語であり、落語なのです。

行きがかりとは言え、その「棺オケ」楽団の立て直しに、尽力することになったヒロイン。
ここで逃げたら、女がすたる……とばかりにです。
「実は……」という意外性を、随所に見せながら、
常にストーリの底流にあるのは、人情です。
「人のために尽くす」
それは、何時いかなる時代でも、美しい。
ということを、観客は改めて、知らされることになります。

私は実は、音楽には、まったくもって、疎いのです。
しかし、この映画を見つつ、ふと夢想するものがありました。
どの楽器でもいい、演奏に加われたら、さぞ楽しかろう……
ということです。
その演奏の、首尾よく終った時の感激は、いかばかりか……
ということです。
現実には、あり得ないのですがね。
この音痴が闖入した日には、楽団も音楽も、たちまち、壊滅してしまいますから。

滑稽噺と見込んだら、実は、人情噺でありました。
笑いと共に、つと目尻から流れるもの。
これの始末に、悩まされました。
いや、暗い館内だから、垂れ流しでも、よろしいのですがね。

ジャンジャン ジャカジャカジャン ジャンジャン
ジャカジャカジャン……
「威風堂々」
エルガーの行進曲です。
勇壮です。
その響きが、見終わった今も、耳に残っております。
音楽って、いいなあと思います。(弾けない、唄えないくせに)

この映画、見初めは、☆☆でした。
ドタバタが気になり……です。
やがて☆☆☆になりました。
ヒロインが、苦悩する辺りです。
さらに☆☆☆☆になりました。
楽団の演奏が、次第に熱を帯びて行く辺りです。

最後、停電のホールにおいて、暗黒の中で、演奏するシーンがあります。
指揮者の、ペンライトによる、指揮棒に従ってです。
これには意表を突かれました。
猛練習の成果で、楽団の全員がもう「威風堂々」を、暗譜をしていたことになります。
ここに至り、☆五つを与えないわけには、行かなくなりました。

製作者の目論見に、まんまと乗せられている。
と、百も承知、二百も合点の上でです。

主演の杏さん、好演でした。
指揮棒を手に、すっくと指揮台に立った時の姿、それはもう、
千両役者でした。
いい顔をしていました。
そして、いい映画です。
皆様に、ご鑑賞をお勧めするものです。

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コメント

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シシーマニアさん

出演者の顔ぶれが魅力的で、見てみたいなと思っていました。
ストーリーだけ取り出せば、最近いくつかオーケストラが舞台の似た様な人情劇を見た様な気がします。

シロートのオケには、人情劇がぴったりしますよね。
「我々の演奏は、技術じゃなくてハートだ」と思っている人達の集まり、と言いますか。

最近のシニア世代には、演奏会とは聴く場所では無くて、演奏する場所だ、と考えている人も多いと聞きます。

大抵練習日には、終わった後お疲れ飲み会があり、コンサートは知人親戚を招き集めて大ホールが満席となり、終演後は打ち上げで潰れるまで飲み続ける・・。

同じ同好会でも、決してソロでは成立しない、人と人との繋がりですから・・。

その辺の空気を巧く、ベテラン役者さん達が醸し出しているのかなぁ、と思っていました。



続きます

2016/11/28 21:03:48

シシーマニアさん

>その演奏の、首尾よく終った時の感激は、いかばかりか……。

でも、首尾よく終わる、と言うのが曲者で・・。
結局は、どの辺で妥協するかにかかってきますから。

只、演奏はある意味、体を使ったスポーツにも似ているので、やり終えた後の爽快感はありますね。



オケの人達の連帯感を、指を加えて眺めているだけ、という気もしてきました。性格の悪いシニアです。

2016/11/28 21:04:29

パトラッシュさん

シシーマニアさんのご洞察は、
正にその通りでありまして
「技術よりハート」の世界です。
そして、練習の後の、飲み会。
さすがに、現状をよくご存知でいらっしゃいますね。

さて、その演奏は……
これはもう、不協、不響の連続で、素人の私の耳にも耐えがたいものでしたから、音楽の専門家、例えばシシーマニアさんが見たら(聞いたら)卒倒するのでは……と思ったくらいです。
まあ、映画ですから、誇張も必要でしょうけれど。

「自己満足」の四文字を、ふと思い出していました。
分野は違えど、私が、それをやったばかりでしたから。
しかし、音楽も文学も、何もプロフェッショナルのものだけではない。
その効用は、素人だって、享受していいのだ……
そう思った瞬間、スクリーンの中の彼らの演奏に、大いなるシンパシーを感じたりもしました。

2016/11/29 08:45:02

パトラッシュさん

続き

「首尾よく」は、所詮彼らの基準でありまして、
そこはもう、大いなる妥協の産物でありましょうね。
やり終えた後の「爽快感」……
結局、求めるのは、そこだと思います。

私はこれを、音楽映画とは見ずに、たまたま音楽の場を借りた、
人情物語として、捉えました。
それがバレーボールでもいい、人形劇でもいい、集団としての達成感を得られるなら、どんな場であっても、成立すると思ったのです。
オーケストラとしたのは、世間の意表を突き、作者の巧みなところかもしれません。

音楽のプロが、この映画を見て、何とおっしゃるか……
興味深くもあります。
どたばた喜劇の道具に、音楽を使ってほしくない……
と思われる方も、必ずいらっしゃると思います。

畑を替えて、仮にエッセイや短歌を、喜劇のネタに使い、
トイレットペーパーのように乱用されたら、素人雑文書きの私だって、いい気持ちはしないと思うからです。

そういう意味もあり、シシーマニアさんに対しては、
この映画を推奨することに、若干のためらいがあります。

2016/11/29 09:03:59


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