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作品名 ナミヤ雑貨店の奇蹟 評価 評価評価評価(3)
タイトル 昭和の残光
投稿者 パトラッシュ 投稿日 2017/10/05 18:51:28

映画を見に行く。
その気になる、させる、理由や動機は、人さまざまでしょう。
私の場合、口コミによるところが、大きいです。
友人、知人からの、好評を聞き「では、行ってみようか……」となります。
さながら、自助努力を怠る、美食家のようなもので、自らはサーチを行わず、
他人の発見した隠れ名店を、渡り歩いては、能書きをこいている。
そんなようなものです。

しかし、この映画の場合は、少し違います。
予告編を見て、私自身が、見に行く気になりました。
昭和の面影を、色濃く残す商店街。
その一角にある、雑貨店が舞台であるらしい。
その、錆びの浮いた、シャッターの郵便受から、投入される手紙。
それが、床に置かれた、ダンボール箱へと落ちる。
既にして、物語を感じさせる情景が、そこにあったのです。

これつまり、予告編作りが、巧みであったということでしょう。
古い建物や、年代物の家具、備品。
投入者の顔も姿も見えぬまま、投げ入れられる、手紙。
それらの映像が、既にして、ミステリアスな詩を漂わせていました。
私は、これが公開されたら、きっと見てやろうと思ったのです。

 * * *

雑貨店の主は、家業の傍ら、周辺の人々からの、相談に応じていました。
匿名、仮名で寄せられる、諸々の悩みに、彼なりの解釈を施し、助言を行っていたのです。
他者の目に、触れて構わない回答は、店頭の掲示板に張り出し、
守秘を要するそれは、封書とし、店の横の、牛乳箱に入れていました。
相談者が、直接取りに来るのです。

滅多にない情景です。
雑貨店店主の、がらにもない人生相談。
私の興味は、それだけで、十分に満たされるはずでした。
しかし、そんな、単純な物語では、ありませんでした。
悪事を働いた、若者三人が、深夜、一軒の廃屋に逃げ込み、潜伏しました。
それこそが、かつての雑貨店です。
もちろん、かつての店主は、もう居ません。

そこへ、深夜、相談者の姿も見えぬまま、投げ入れられた手紙があります。
それは、三十二年も前に書かれた、悩みの相談でした。
これに驚き、戸惑いつつも、回答を試みる三人。
返事を牛乳箱に入れれば、何時の間にか、これが消えている。

画面は、頻繁に、1980年と2012年とを、行きつ戻りつします。
さながら、スウィッチバックを繰り返し、次第に高度を上げて行く、
登山電車のようなもの。
過去と現在、その両場面が交錯し、頭が、混乱しかねません。

この映画、多分、褒貶相半ばするだろうな……
ということを、上映中から思い、見終った今も、思っています。
讃える者、それは、きっと、頭の良い人でしょう。
フラッシュバックする、今昔の物語を、難なく受け入れ、繋げて行くことが出来る。
そういう人でしょう。

私のような、回転の鈍い頭では、それが難しい。
「時間が止まっている」
製作者は、この一言で、時系列の混乱を、観客に、納得させようとしたようですが、
それでも容易に、映画の中に、没入できませんでした。

「月のうさぎ」「魚屋ミュージシャン」「グリーンリバー」「迷える子犬」
いずれも、相談者の仮名であり、それぞれに、小さくない物語を抱えています。
さながら、派生し繁茂する、枝葉のようであります。
それらが、幹となる、メインストーリーを、見えにくくしている。
そういう感があります。

他に作りようが、あったはずだ。
単純な、ヒューマンドラマとしても、立派に成立したはずだ。
それなのに、強引に、ミステリ−へと持って行った。
行かざるを得なかったのは、原作があるからだ。

離れ過ぎたら、クレームが付くであろう、立派な原作があった。
著者は、東野圭吾という、ベストセラー作家である。
似ても似つかぬ映画にしたら、ファンから、さぞ苦情が寄せられただろう。
このような映画になり、これはこれで、止むを得なかったかもしれない。
ということを、今、頻りに思っています。

しかし、原作を知らず、いきなり、この映画を見た、私のような観客は、
大いに戸惑ったことも事実です。
それで、☆☆☆ということになりました。

 * * *

映画を見たかった理由が、もう一つあります。
私自身、六年前まで、金物店を経営していました。
雑貨店とは、近しい親戚のような業態です。
御多分に漏れず、この業界も、衰退が続いています。
絶滅危惧どころか、既にして、全滅してしまった地域も少なくありません。

1980年の雑貨店に、私自身が、舞い戻って見たかった。
「へえ、いらっしゃい」
そこで、店番をしてみたかった。
その合間に、悩みの相談に乗る。
それも文書で回答する。
これもまた、私のやってみたかったことです。

しかしながら、私には、映画の主人公、浪矢雄冶さんのような、人望がありません。
相談は、集まらないでしょう。
そして、忍耐力もありません。
映画の中にあったような、些末な相談には、つい、突き放してしまいそうです。
「そんなこと、自力で解決しろよ」
私はとても、ナミヤ雑貨店の店主には、なれそうもありません。

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コメント

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漫歩さん

前半のあらすじを読みながら主人公がパトラッシュさんと重なりました。
パトラッシュさんも、ご自身と重ね合わせられたのではないかと思いました。

それだけに、作られたものが不満足だったでしょうね。

2017/10/06 11:48:23

パトラッシュさん

漫歩さん、
そうです。
想像した映画と、大分違いました。
私は、原作者の、東野圭吾と言う作家の作品を、まったく読んでおりませんでした。
人気があるらしいですが、私の好みとは、少々違いました。

2017/10/06 17:51:40

やたがりあさん

う〜〜む 良い映画なのか そーでもないのか・・・

知人からは「お勧め」でした、観れば感動するって。

でもわたしゃ東野圭吾の本はあまり好きではないし、やっぱりパスにしときましょかね。

おおきに。

2017/10/07 10:54:59

パトラッシュさん

やたがりあさん、
評価は分かれるようです。
「映画com.」などを見ても、好評、不評が、交錯しております。

私の意見としては、「見ろ」とも「見るな」とも、言いかねるところです。

2017/10/07 12:06:46


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