+++学生時代には、男の子の方でもその方が気が楽
みたいだった。多分私を支えるのに、一人で責任を負
わなくてもいいから」
37.不思議な人
おしゃべりが一段落した時、思い切ってホテルへ誘
った。
「ねえ、場所をベッドへ移そうよ。お喋りを続ける
のに、ベッド以上の場所は他に無い、と貴女がさっき
教えて呉れたからねーーー。それに、人物が本物かど
うか、そこで確かめる必要があるよ」
女は薄く笑った:
「無論、OKよ。ウフフーーー好感が持てればそうし
て見ることね、本物かどうか判るわーーー」
「ベッドで面接試験を受けるみたいだーーー」
「貴方は女性の扱いが、上手ね。初対面の男性に、私
がこんなに沢山おしゃべりをするなんてーーー、初め
ての事よ。不思議だわ。貴方は頭が良い人なのね、き
っと。打てば良い響きがするもの」
「ゴーンと鐘が良く響くのは、普通はお賽銭が良い場
合に限ると思うがねえ」
「アハハーーー確かに!」
事前に調べておいたホテルへ車を走らせた。 助手
席に座った女は車を褒めた:
「いい車ね」
「トヨタだよ、静かだろう? ビックリ、クリクリ
かい?」
「アハハ、マネしたわね。 クッションが良いわーーー」
「いい車かどうかは、車内がどの位静かかーーーとい
うのが目安らしいよ」
「静かだから、音楽が楽しめますね」
「貴女の言葉を、漏らさず聞き取らなくちゃならない
から、今日は特別静かな車を用意しました。囁きだっ
て聞こえる」
「ウフフーー。 じゃ、何を囁こうかしらーーー?」
「女と男が一緒に居て、囁くのは愛に決まっている
さ、モーツアルトの時代から」
「アハハーー、確かに!」
「貴女はセックスが好きかいーーー?」
「ーーー」
「好きだといいんだけれどねーーー」
「少なくとも、嫌いではないわーーー。 その人を好ま
しいと感じたら、自然に寄り添いたくなる」
「なるほど、いい答えだ。 詩人だねーーー」
「食べている時からずっと感じていたけれど、会話が
お上手ね。人を反らさないもの。私の人生で今まで
に、貴方みたいな感じの人に出会った事がないわ。不
思議な感じのする人ね」
「へえ、不思議かい? おかしいねえ。これまでそん
な男に出会った事がないのは、男性経験が案外少ない
んだーーー」
「アハハ、そのようね。きっと、そうに違いない
わ。元々少な過ぎるんだ!」
「不思議に感じるのは、少しだけ魔術を使うから
さ。便利な黒魔術」
「黒魔術ですって?」
「ああ、女性に嫌われない為の魔術。なに、難し
くはないよ。決して逆らわないようにしているだ
けだよ」
(つづく)
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