＋＋＋貴方のお歳でも、女に持てているじゃない
の？」
「貴方に持てるかどうかは、これからの問題だと思う
けれどーーー」
「ちゃんと立派に持ててるわ、心配無用よ」

３３．貧すれば鈍する

「確かに男は気楽坊子に違いないーーー。貴女のよ
うに、生き方が真面目なのは不真面目よりいいと思
うよ。それに、そんな風に考えるのは、まるで考えな
いよりいいと思うね。でも、人生は長いからね、真面
目が過ぎると途中で疲れるかも知れないな」

「田舎に帰る前に出来そうな事は、一応試してみよう
かと思ってーーー、スポンサーを募る事にしました。
売り出しに成功したら、配当でお返しします」
「配当だなんてーーー貴女は自分で才能があると思っ
ているの？　確かメールでは、モーツアルトの再来だ
と書いてあったぞ、フフフ」

「エヘヘ、正直を言うと、やっておれば自分の才能の
限界は判ります。 仮にパトロンやスポンサーが付い
ても、スターになれる力はないんです、第一背が低い
しーーー親を恨むわ。頑張っても三番手か四番手だと
思う。それでもいいんです。ただもう少し、好きな道
で燃焼したくてーーー」
「パトロンで資金集めなんて、選挙運動みたいだ」

「どうせ国へ帰らなければならないなら、選挙運動の
後で帰ったところで遅くは無いわ。 田舎の山も川も逃
げないものーーー」
「フフ、それであんなメールになった訳か。 限りある
身の力試さんーーーって訳だね。追い詰められて、少
し破れかぶれも混じってるようだけれど」

「そうーーー破れかぶれで、限りある身を試しています。それにもう一つ、私は浪費家ではないですけれ
ど、買いたいものを我慢して買わずに済ますタイプで
はありません」
「なるほどーーー、経済を支えるパトロンは大変だ
ね。けれども今回捕まえた目の前の男は、貴女のお腹
の足しになりそうにないね。本人も残念に思うけれ
どーーー」

「貧すれば鈍する、というのが芸術よ。お金が無けれ
ば芸術は育ちません。ダンスのトウシューズの傷むの
を気にしてタップの切り方を加減してたら、芸術以前
だもの」
「なるほどーーー」

「他にも、衣装、公演旅行の旅費ーーー体を作る為に
蛋白質も採らないとーーー。 だから、パトロンは不可
欠よ。今も昔もーーーモーツアルトの時代から」
「歌舞伎役者や相撲取りにも贔屓筋があるって聞くのは、それだな。一種の後援会かーーー」
「そう、後援会」

（つづく）