+++「やっぱり」と思っただけである。記憶に登ら
ないようにしっかり蓋をして、自分が忘れた振りをし
ていたに過ぎなかったと気が付いた。
35/50.おらが茶屋
「言ったように同級生でしてね。小学校二年の時で
したが、ここで茶店をやって暮らしていると、彼女が
私に話したことがありました。今日登ってきて、昔を
思い出して懐かしくなってねーーー」
「今日は、どちらから来られたんですか?」
「今は明石の方に住んでいて、そちらから来たので
すが、昔は須磨の潮見台町に住んでいました」
「ああ、潮見台はJR須磨駅から山の方ですね」
「ええ、須磨駅から通称キツネ坂というきつい道を登
ってね」
「どの道を通って、ここへ登ったのです?」
「無論、須磨駅から潮見台を通り抜けてーーー。その
道しか知らないから」
「まあそりゃあ、ここまで道が随分遠かったですね。
高倉町の登山口から来れば、近かったものをーーー」
「その木村さんの女の子は、西須磨小学校だったけ
れど、私が来たのと同じ山道を一人で登り降りして、
ここから毎日通学していたんですよ。小学二年の事だ
ったけれど」
「へえ、二年生の女の子がねえーーー!」
「多分、彼女は一年生の時から、同じ道を歩いていた
筈だと思うよ」
「ーーーー」
喫茶店に備えていた案内書によれば、須磨アルプス
の山並みは西の端から始って、鉢伏山246m→旗振
山252m→鉄拐山234m→高倉山213mとなっ
ている。
高倉山が一番低い。高倉山には「おらが茶屋」があ
って賑わっている、となっている。「おらが茶屋」
とは、この喫茶室の事だ。昔も「おらが茶屋」と同じ
名だったなら、いや、きっとそうに違いないと思う
が、ユーモラスでいい名前だ。
彼女はどうして、そんな素敵な茶店の名を私へ教え
なかったろうか? いや、「おらがーーー」なんて、
小二の女の子が使うには、きまりが悪かったのだろ
うか。公立とは言え、何せ二宮金次郎の銅像があった
名門の小学校だったものなーーー。「おらが」はそぐ
わないのだろう。
(つづく)
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