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作品名 アカンタレの話(22) 評価 評価(1)
タイトル アカンタレの話(22)
投稿者 比呂よし 投稿日 2014/01/17 09:58:00

+++卒業して、彼女はこの茶店を手伝っていたの
かも知れない。父親は町に働きに出ていて、茶店の
商売は母親と二人で、やっていたろうか? 時代の
流れと共に、店はやがて寂れたのだろう。

23.探索
 小ニの当時、山の上は電気も無い恐らくランプの
生活で、夜は漆黒の闇であったろうか。それでもお
陰で、夜は満天の星が美しかったろうーーーと、想
像を逞しくして空を見上げた時、はっとなった。

 木に覆われた林の中からは、青空が一部しか見え
なかったからである。もう一度はっとした:この場
所からは南の瀬戸内海も見えず、少しも景色が良く
ないではないか! 選りによってこんな場所を好ん
で、茶店を開店する馬鹿は居ない。大学生の分析も
実にいい加減で、頼り無い。女の子に手もなくひね
られた気がして、独り苦が笑した。

 茶店はここではない。石垣から腰をあげ、辺りを
探索し始めた。女の子が昔「こっち!」と示した分
岐点は、近辺にある筈だった。山頂まで登る計画を
中止して、辺りを熱心に探し始めた。

 とは言っても、幅が細く急な登山道ばかりである
し、標高が低い山でありながら案外樹木が多くて、
それらしい道の入り口に立っても、先までは見通せ
ない。道を途中まで行きつ戻りつして半日掛けて調
べたが、とうとうその日は足が疲れて諦めてしまっ
た。

 判らないとなると、余計に気になる。その後社会
人になってからも、思い出すようにして、初めから
茶店を探索する目的を持って、時折散歩を兼ねて休
日に山へ出掛けた。けれども、連峰になっていて所
々深い処があるからか、登っても毎回判らなかった
のである。
 鉄拐山の頂上まで登って、そこから眺め回してさ
え判らず、判らないのが反って理屈として不思議で
あった。速足だったとはいえ、小ニの女の子の事だ
から、歩けた範囲と距離は多寡が知れていた筈だの
にーーー。

 もっとも、頼りない小二時代の事件であったから、
私の記憶に多少曖昧な処があったせいでもある。分
かれ道はもっと標高の高い位置だったような気がし
たり、右と思い込んでいたが、本当は左の山道では
なかったのかという気の迷いまでして、そうなると
記憶の何処までが正しかったのか、自信が無くなっ
た。

 茶店もそれらしい跡も終に見付からず、まるでか
き消されたように山から消えていた。とうとう、ア
レは現実と幻想の境目にある、小ニの記憶間違いだ
ったかと怪しんだ位で、茶店の場所は謎のままにな
ってしまった。

 やがて私は家庭を持ち、潮見台町を離れ大阪市へ
移り、その後他の地方都市へ移り住んだりして、二
人の男の子ももうけた。何時しか茶店も小ニの女の
子の事も、日々の生活の営みの中に埋もれ、一種の
幻想として遠い彼方に薄れて行った。それが初恋と
言えるかどうか、それらしいものは無くなった。

 けれども、私が自覚しないまま、女は私の中に勝
手に棲み続けたのである。本人に判らないように姿
を変えて、まるで遺伝子が陰で役目を厳密に遂行す
るように、私と私の家族を密かに支配し続けた。誰
も気付かなかった。

(つづく)

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