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作品名 アカンタレの話(7) 評価 評価(1)
タイトル アカンタレの話(7)
投稿者 比呂よし 投稿日 2014/01/01 09:32:41

+++眺めて楽しむ医者と看護婦の姿を想
像すると、恐怖で舌が凍りついてしまう。
そんな私の様子を見て、「この子は、生ま
れ付き一言も物をしゃべらない子供だ」
と、看護婦は勝手に誤解した。

7.高倉町 

 夏休みが過ぎた二学期の恐らく九月頃だ
った。午後三時前後だったろうか、学校か
らの帰路、全行程の七割辺りまで来て、も
う少しで潮見台町に入るという辺りだった。

 道幅の広い最後の上り坂だったが、前を
行く一人の女の子に追い付いた。追い付い
たのは、その日私が途中で余り道草を食わ
なかったせいである。

 地球が自転するのを見た事は無いが、し
かしまるでそのように、女は手提げ袋を自
分の体と一緒にぐるぐる振り回しながら、
同じ方向へゆっくり歩いていた。私のよう
なランドセルではなかった。こっちの姿を
認めて、女は地球の自転を停止した。

 それが同じクラスの、普段から憧れを抱
いていた例の背の高い彼女だと知って、び
っくりした。

 それまで、私の帰る方向と女の方向が同
じなのをまるで知らなかったからである。
これまで出遭わなかったのは、自分のだら
だらした道草のせいだったと知って、この
時ばかりは自分の愚かさを悔やんだ。

 辺りに冷やかす級友は居ないし、ただっ
広い道の中に女と私と二人きりである。チ
ャンス! 気恥かしくはあったが、照れ笑
いの中にわくわくしながら、思い切って声
を掛けた。
 気弱で温和しかった私にしては、かなり画期的。精一杯気運を醸そうとして、よそ行きの言葉を使った。

 クラスで普段私以上に温和しかった女
は、よそ行きの声にびっくりしたらしい。
怪しむような目を向けたが、それが同じク
ラスの泣き虫の男の子だと判って、女は気
安さを感じたらしい。
 真の友情は相互間の正しい軽蔑の上にお
いてこそ成り立つ、と誰かが言ったよう
だが、これは子供の世界でも成り立つ。そ
の証拠に、応じた女の声は真に友情的だっ
たのである。

 方向は同じだが私の住む潮見台町ではな
くて、女は高倉町なのだと言った。高倉町
がどの辺りなのか私の知識に無かったが、
私は自分の家がクラス中で一番遠方に位置
していると信じ切っていたから、それだけ
の根拠で、女の家が距離的に遥か手前にあ
るものと楽観的に解釈した。

(つづく)

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2014/01/01
みのり
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