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作品名 クワバラの話(1) 評価 評価(1)
タイトル クワバラの話(1)
投稿者 比呂よし 投稿日 2013/12/19 17:23:13

クワバラ・クワバラの話

1.掛け軸

 ウチの和室の床の間には何年も同じ掛け軸が架か
っている。人から貰ったものだし、それ一つしか無
いからでもある。

「桃李花開一杯酒」(とうりはなひらく いっぱい
のさけ)と縦書きの墨跡がある。左脇に小さく九十二
翁XXXとある。名のある人が書いたものと思うけれど
も、幾ら眺めても、ちっとも上手には見えない。だ
から、何年架けていても感動しない。

 ウチの社の40になる女事務員は、二人の子持で
あるが、体型はスマートである。そのせいか、社の
定期健康診断で過去三年連続で「栄養失調」と診断
されている。今年もその記録を更新した。それでも、
手にだけへは部分的に栄養が行き渡るらしく、字が
大変上手である。

 彼女は私の秘書も兼ねているから、手渡されるメ
モ書きも含めて、私は毎日何かしら彼女の書いた字
を眺める事になる。のびのびした好い字だ、と何時
もながら感心する。香り立つようで時々見ほれて、
目の飽きる事がない。

 一度、何故そんなに上手なのか、と訊いたことが
ある。子供の頃にペン習字を練習しました、と応え
た。それを聞いて、自分も若い時に、字を練習して
おれば良かったとつくづく思う。

 そんな風に思うのは、実は自分が大変な悪筆だか
らである。平均より大分下回る。私が社員へ何か手
書きで渡す時、二割位の人に字が読めない。これは
「なんという字ですか?」と訊くから、こっちはム
カッと来て、「こやつは、俺に嫌味を言っている
のか?」、それとも「もしや、文盲か?」と怪しん
だ。

 しかし念の為に、自分の書いたのを後でこっそり
再読してみたら、何の事やら自分でさえさっぱり判
らなかったから、罪は私の側にあると、内心でうな
だれた。

 けれども私の配偶者一人だけは例外で、私がど
んな風に書きなぐっても、必ず正しく読んでくれ
る。不思議だと思う。
 訊くこと自体がおかしいのだが、何故読めるのか、
と彼女に訊いたことがある。すると、「ヒーチャン
(=恥ずかしながら、私の名)の書いたものなら、
何でも全部分かる」と言われた時には、流石にドキ
リとした。

 何もかも「お見通しよ」と言われたような気がし
て、股の間がこそばゆくなるから、クワバラ・クワ
バラ。普通の男なら誰だって、配偶者には言えない
内緒事の一つや二つはあるもので、つまりは震え上
がる筈だと思う。

(つづく)

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