(1)
一年前の話である。
私は高知産のウルメ (=メザシ、いわしの干物)が
好物である。高知に何年か住んだので、その時に味
を覚えた。食べ比べたが、他の産地のものは何故か
塩味がきつ過ぎる。高知産は、季節によっても違う
らしいが塩味が程よい。
品質のいい太目のものなら1本が300円位もす
るから、結構な値段ではある。 メザシと言えば昔は
安物の代名詞だったのに、昨今は高級食材で、求め
る人は「通」として尊敬される位である。
毎日車通勤をしているが、会社と自宅の間にちょ
っと回り道をすると郊外型のSデパートがある。 配
偶者に頼まれて時々会社の帰りに立ち寄る。ここの
デパ地下では私が知る限り、高知産のウルメを扱っ
た事がない。これが残念である。
強いて通がる必要も無かったし、その気になれば
最近はネットでも取り寄せられる。しかし、たかが
メザシだから何もそこまでしなくてもーーと思って、
ついそのまま残念な人生を過ごしていた。
ある日会社の帰り、立ち寄ったデパ地下で偶然
「高知産」のウルメを見付けた。 3本がセロハン一
袋に入れられて、たった一つあった。 こっちは高知
で鍛えた目利きだから、色艶といい上物だと直ぐに
ピンと来た。
今までに無かった事なので、顧客の反応を見る為
に「仕入れ係」が、市場調査も兼ねて試しに売り場
に少し並べてみたのだろうか? それが一つ売れ残
っていたのだ。やれ嬉しや!横から人に取られまい
と思って、素早くその一袋に飛び付いた。
|