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作品名 スイカの話(3) 評価 評価(1)
タイトル スイカの話(3)
投稿者 比呂よし 投稿日 2013/11/17 10:40:27

++++帰り道に必ずスイカを買って、食べながら
帰るんだ」と、私は密かに誓いを立てた。

(3)
 私は中学生になり、やがて叔父さんは結婚してウ
チから居なくなり、何時しか全ては忘却の彼方に薄
れて行った。時代が移り、私は大学を出て大阪の会
社に勤務するようになった。会社は須磨駅から国鉄
に乗り、大阪駅でバスに乗り換えて1時間半も掛か
ったが、住み慣れた家からキツネ坂を歩いて駅まで
出て通勤した。 朝晩の行き帰りに満員の通勤電車に
揺られて、帰りのキツネ坂を登るのは疲れた。

 夏の盛りが間近い頃、会社からの帰りに私は須磨
駅前の大して人通りの無い商店街を歩いていた。文
具を買うためである。文具店が見当たらず、何気な
く目先の路地へ折れ曲がった時、そこに間口の狭い
果物屋が、ひっそりとあった。

 店の脇にガラス戸で囲んだ小さな棚が置いてあっ
て、中に分厚くて四角い氷が敷き詰めてあり、上に
スイカの赤い切り身の大小が並んでいた。目にした
時、 小さな記憶の断片が私の中でいきなり風船が膨
らむように大きくなった。「ああ、これだったん
だ!」と、私は十何年か振りに叔父さんを思い出し
た。

 時代が変わり、無論昔の叔父さんの頃とは違う店
の筈だったが、「この店に違いない!」と心の中で
叫んでいた。前から見知っていた人に再会したかの
ように懐かしく感じて、そこへしばらく佇んだ。

 そんな様子を見て、店の中から中年の女がそばへ
寄って来た:「冷えたのを一つ持って帰るか?」

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2013/11/17
みのり
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