筆さんぽ

「長屋の花見」タイランドスタイル(3) 

2024年03月30日 ナビトモブログ記事
テーマ:エッセイ

(前回)
「いきなり幸せになるところなんか『ファンティ・ペンチン』みたいね」。もうひとりの天使も加わってきた。
「なにそれ?」。ぼくには、はじめて聞く言葉だった。


『ファンティ・ペンチン』というのは「夢がかなう」という意。テレビの人気番組である。長屋の仲間に教えてもらって、実際、ぼくもこの人気番組を見た。(テレビをあまり見ないのでよくわからないが)おそらく日本にはない番組で、なかなかにおもしろい。
毎回、視聴者の一人がスタジオに招かれて、その視聴者の「夢をかなえてくれる」というのである。

その幸運な視聴者になるには厳しい条件がある(聞いたまま意訳して列記します)。まず、貧しいこと。ただ貧困であればよいというわけではなく、働き者であり、しかも「人格高潔」でなければならない。出演したい人は、テレビ局に窮状をこと細かく書いた手紙を出す。テレビ局では手紙をもらうと、スタッフを動員して、本人はもちろんのこと、近所の人たちなどに手紙の内容が事実かどうかなどを徹底的に「取材」する。

晴れて出演が決まると、取材をもとに彼女(出演者は高齢の女性が多いという)の窮状、日常生活などの「再現ドラマ(役者が演じる)」が作られる。番組では「再現ドラマ」のあと、本人が登場して司会者に「がんばっても貧しさから抜けられない」と訴える。
夫は借金を残して事故で死に、働けど働けど三人の子どもを小学校にも行かせてあげられない。生活の糧だった屋台を盗まれてしまい途方に暮れている、などなど。

テレビの前の人たちはこうしたやるせない話に、なんとかしてあげたいね、と涙を拭く。
番組が終わると、出演者に「見舞金(ブン巡査の3から4倍の大金)」が手渡せれる。それに加えて、たとえば屋台を盗まれた人には新品の「屋台セット」、赤ちゃんのいる人には哺乳瓶をはじめとする「養育セット」などが贈られる。

貧しい人にとってはまさに「夢がかなう」わけである。
タイの人たちは、こんなふうに「いきなり夢がかなう」話が大好きで、週に2回もある宝くじはそれこそ飛ぶように売れ、ご法度の賭博(オイチョカブに人気があり、掛金もけっこう大きいと聞く)に夢をかけ一攫千金をあてこむ人がけっこう多い。

「もし『ファンティ・ペンチン』に出られたら、ブン巡査は何がほしいのだい?」。ぼくはウイスキーをすすめながら聞いてみた。
(最終回につづく)



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