筆さんぽ

早春の大地に紫色の恵み(1) 

2024年02月25日 ナビトモブログ記事
テーマ:筆さんぽ


去る19日は「雨水(うすい)」であった。雨水は、雪や氷が解けて水となり、雪に代わって雨が降り始めるころという意だそうだ。実際は積雪のピークであるが、この時節から寒さが峠を越え、暖かくなり始めるとされる。植物の草や木も芽を出し始め、日ごとに春を感じさせる。また、鶯(ウグイス)の鳴き声が聞こえ始める地域もある。

雪間より薄紫の芽独活(うど)かな 芭蕉

芭蕉が早春のよろこびを詠む。
山国へ旅したときの句だろうか。山野は早春の景色の色。早春とはいえ風はまだ冷たく、雪もすこしのこっている。大地に目をやると、雪間から薄紫色の独活の芽が顔をのぞかせている。春を告げる便りがやってきた。かわいい薄紫の芽を見ていると、あたりは春の香りで満ちあふれ、色とりどりの花の歌声がきこえてくるようだ。うれしい春がやってくる。

「一雨ごとに温暖(あたたか)さを増して行く二月の下旬から三月のはじめへかけて桜、梅の蕾も次第にふくらみ、北向の雪も漸(ようや)く溶け………心地の好い風が吹いて来る」

時期は少し早いが、春を呼びたくて、島崎藤村の『千曲川スケッチ』(新潮文庫)をひらいた。

「青空の色も次第に濃くなる。あの羊の群れでも見るような、さまざまの形をした白い黄ばんだ雲が、あたかも春の先駆をするように、微(かす)かな風に送られる」
春の香りは心を弾ませる。若いころは、春の訪れをさがしに、早春の野山にでかけたこともある。

芽吹いたばかりの草花が春のあふれる光をさそい、香りゆたかな山菜たちも、大地を割って、ちいさな顔をのぞかせる。
渡辺一枝の『草の絵本』(講談社)をひらいた。

「春は野山においしそうな緑が溢れるので、食いしん坊の私は家の中にひきこもってばかりはいられません。………ちょっと遠出して山菜採りに出かけます。ワラビ、ゼンマイ、コゴミ、山ウド、深山(みやま)には春の恵みがいっぱいです。

………友と行く山菜採りの夜は、たいていキャンプです。焚火を囲んで、誰の顔を和んでいます。もちろん肴は屈託のない楽しい話題と、さっき掘ったばかりの山ウドです。清冽な沢の水で洗い、生味噌をつけて齧ります。歯をあてたとたたんに口中に広がるさわやかな香りと味は、たとえようもありません」。

あしたは、若々しいウドの芽のような薄紫色のお話をお届けします。



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