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『絶滅魚クニマスの発見』 <旧>読書日記 番外 

2023年12月20日 ナビトモブログ記事
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中坊徹次『絶滅魚クニマスの発見』新潮選書(図書館)

久しぶりに開架となった図書館で見つけた本。クニマスの発見についてはサカナくん(実名:宮澤正之)の関与が言われているがどのように関与したかを知りたく思い借りだした。が、本書の記述は素っ気ないとも言えるもので巻末近くのエピローグで10数行のみであった。

ここで「西湖クニマス」が私のところに来たいきさつを述べておこう。…私が監修していた本のために、イラストレーターの宮澤正之に、京都大学の田沢湖産クニマス標本の絵を描き、田沢湖の古老に聞いて往事の色を再現する様に依頼した。そのときヒメマスとクニマスは似ているのでどこかでヒメマスを確保して参考にするように言ったのである。
(中略)
雌の絵を描くために再び京都に来た。このとき「2匹の黒いマス」を持参して、保冷箱から取り出して私に見せたのである。見ても黒いマスとしかわからなかったので、私が「何です、これ」と言うと「ヒメマスです」という答えがかえってきた。(中略)これが私と「西湖クニマス」との出会いである。

本書は一般向けの本であって、学術論文では無い。しかしながら、書き方と内容は学術的であって、クニマスの同定発見に至るまでの過程の記述は厳密にして詳細で半ばは退屈である。文献からクニマスの習性、常態などの特徴を読み取り、成長するにつれて変わるクニマスの色など類似しているヒメマスとの差異を確定していく・・とりあえず「見ただけで判る魚ではない」ことの詳しい説明は発見当初の報道が誤解を招きやすい記事であったことに起因しているのではないかと推定される。

そして、何回か本文中で書かれているのであるが、学会での発表と論文の公開が初めであるべきで、それまで具体的な内容は発表してはならないのに対し、新聞などの記事から生じた質問に対して公に答えるにはいかなかった、としている。しかし、その学術論文の発表を待たずして「クニマス発見」についてマスコミに流したのはどういうことだろうか?このあたりを調べて見ると、新聞を通じての発表は2010年12月14日、論文の掲載誌(日本動物分類学会誌「タクサ」年2回発行)が発行されたのは2011年2月20日なので論文の査読は終わって居たのではないかと思える。

ところで、上ではイラストレーターと書かれたサカナくんであるが、この紹介の仕方が学者としてのプライドを示しているとも見られるが、実際は著者の中坊徹次とサカナくんとは関係が深く、サカナ君の著作のいくつかは著者が監修しているし、天皇(現上皇)陛下にサカナ君を紹介したのは著者であり、そのことも相まってクニマスの発見について天皇は特に著者とサカナくんの名をあげて称賛したのである。

目次
プロローグ 京都大学の魚類標本室から
第T部 どのような魚か
第1章 発見への道のり
第2章 西湖クロマスはクニマスか
第3章 伝説から科学へ
第4章 原型としてのヒメマス
第5章 田沢湖でクニマスになる
第6章 種の輪郭
第7章 記録の検証
第U部 絶滅と復活
第8章 消えゆくクニマス
第9章 田沢湖の昔
第10章 漁業組合の結成と終焉
第11章 見えない魚の行方
第12章 発見から保全へ
第13章 保全と里帰りのための研究
第14章 里帰り --現在から未来へ
エピローグ
謝辞
クニマス関連年表
参考文献
(2021年6月5日〜28日掬読)



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