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読書日記
『泳ぐ者』 <旧>読書日記1519
2023年11月26日
テーマ:<旧>読書日記
青山文平『泳ぐ者』新潮社(図書館)
同じ著者の『半席』(読書日記104)の続きである。前作は短篇集であったが今回は長篇。と言っても続編であることは判りにくい。確かに主人公の名の片岡直人と役割、主人公周りの登場人物例えば上役の内藤雅之などに変化は無いのであるから、その名前だけからでも関連があることは判るのだろう。
しかし、私は鈍いのか数十ページ読むまで気が付かなかった。それは冒頭の片岡直人と上役の内藤雅之とが居酒屋で交わす会話の内容が「海防」であったからでもある。
それが「なぜ」を問い続けるとか、徒目付の位置とか、「見抜く者」としての己であるとか、前作『半席』での言葉が出てくる様になってようやく片岡直人という人物を思い出した。その片岡は思い悩んでいる。それは自分が担当した事件についてであり、旗本の妻が離縁された3年後にその旗本を刺殺したのは何故かについてである。この事件は片岡が犯人であった妻の菊枝と話した夜に妻が自殺したことによって形式上は終わっている。
が、旗本が妻を離縁した理由が「同じ墓に入りたくなかった」・・これは後に「同じ墓に入れたくなかった」と1文字の訂正をされるのであるが・・いずれにしろこの言葉の背景は何か。そして菊枝が刺殺した理由は何か、さらに直人と話してすぐに自殺した訳は何か、と直人は考え続けやがて腹を壊す。
そして、もう一つ、大川を毎日決まった時刻に泳いで往復する者がでる。その泳ぎはどちらかと言えば下手であり、溺れかけていると見えるほどのおよぎであったが、いつしか評判となり大勢のものが見物する様になる。問題は数年前の橋が落ちた事件により、橋の上に立ち止まることは禁止されていることであり、大勢の見物人は橋の上でその泳ぎを見ることにある。
直人はその泳ぐ者、簔吉となのった男に事情を聞き、泳ぐことを止めろとそっと忠告するのであるが、簔吉は願掛けでありあと二日間で終わると言うので見逃してやる。が、2日後に御徒(幕臣)である川島辰三によって斬り殺される。直人はその日は簔吉に知られまいと思って遠くから見守っていたのであるが、怪しい男を見つけて駆けつけようとしたが間に合わなかった・・ただ、切られる直前に簔吉がうれしそうに笑ったのを見た。この事件を受け持つことになった直人は簔吉の笑みの謎が知りたく思い、長崎へ御用のために行く時に簔吉の故郷の村へ行こうとするが、その名の村は無かった。
そうした間にも、内藤雅之は海防のことについて直人と語り合い続け、遂には自分と共に海防係への転進を求める。それは半席から抜け出る道であったが、二つの事件が心にあり続けている直人は徒目付に留まることを選ぶ。
と、話の粗筋らしきことを書いてきたがこれは心象風景のスケッチである。人の行為の「なぜ」を突き止めることを「見抜く者」たることを選んだ主人公にとって納得のいかない謎と一応の解決を抱え、それでもなお飽き足らず求める「なぜ」。作者が漠然とした形で示す答えはある意味暗い。そして、主人公の直人は自分のしたことの重みを背負って生きねばならないのである。
(2021年6月6日読了)
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