読書日記

『ほそ道密命行』 <旧>読書日記1348 

2023年03月13日 ナビトモブログ記事
テーマ:<旧>読書日記

田牧大和『ほそ道密命行』徳間書店(図書館)

図書館に本を返しに行ったついでに書棚を眺めたら発見した本で2012年刊であった。いやぁ、こんな本があったのだと借りたのだけど、題を見て初めは「ほそ道」が「奥の細道」のこととは思わなかった。

芭蕉は実は隠密であったとか、忍者であったとかいう俗説はあるもののまさかそれを下敷きにした話であるとは思わなかったと言うべきか。

もっとも、本書では芭蕉はただ自然と共にありたいと願う人として描かれているのであるが、芭蕉は五代将軍綱吉の側用人・柳沢出羽守保明との密やかな関わりがありその奥州行きに何らかの意図があるのではないかと疑う勢力がある。それは水戸藩であり、芭蕉は仙台・伊達藩と何らかの密約を結びに行くのではないかと疑う。さらに、芭蕉の同行者の曽良(作中では「宗吾」または「そーご」と芭蕉から呼ばれている)芭蕉の弟子となって6年目であるが実は幕府神道方・吉川帷足の配下であって帷足によって送り込まれたという背景もある。。

物語はほぼ曽良の視点で書かれ、曽良は俳句はまだまだであるが気遣いに優れ、武の能力もあって芭蕉を狙う誰とも判らぬ一味から芭蕉を守り切ろうとする。

ということで、『奥の細道』(この書は芭蕉によるフィクション混じりの紀行書である)に描かれたような風流や雅趣にあふれた旅では無く、柳沢保明と水戸徳川家の思惑が交錯し、芭蕉を狙う合計3つの別集団と曽良との闇の戦いが中心である。

それなりに面白い話であるが、基本の陰謀や疑惑が不明確な上に、終わりも意外な人物が出て来て、メチャクチャに近い収束となる。なにより、松島で話は終わってしまうのだ。

もともと(?)著者は読者の興味を惹くためか話をひねりすぎるきらいがあるが、それが返ってうまくはまらない場合が多いように感じる。本書は雑誌「問題小説」に掲載した8章の単行本化らしいが、短編の1つ1つは面白く読めてもまとめると破綻してしまったのであろう。
(2020年7月12日読了)



拍手する


コメントをするにはログインが必要です

PR





掲載されている画像

上部へ