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シニアの放課後
<心に成功の炎を>60
2018年06月15日
テーマ:中村天風<心に成功の炎を>
あなた方は興味のあるものには 求めずとも注意をそうとう長くふりむけられるが そうでないものには 注意の注がれる力が弱くなってしまうんだね。興味の感ずる芝居や書籍などは たいして疲労もせず倦怠感も覚えずして 粘り強い注意を長時間ふりむけられるけれど 興味の薄いものには すぐあきちゃって注意なんかどっかにいっちまう。
そうじゃなくして 何事に対しても まずそのものの中から何かの興味を見出すか またはつくりだすかして どんな興味のないものに対しても 必ず意識を明瞭にして応接する習性を作るようにする。もっとわかりやすく言えば 何事をおこなう際にもけっして<なに気なしにおこなわぬ>ことを心がける。
これを有意注意力というんだが これが習性化されてくると 自然と注意が注がれる範囲が拡大されていって 一度に多数または多方面に自分の注意を困難なくふりむけられるようになってくる。言いかえると やたらにくだらない不必要な消極的観念が心の中を占拠して 有意注意力を撹乱するということがなくなってくる。
その当然の帰結として 連想力が正確になり いわゆる思想の整理が自然に巧妙になされるようになると同時に 記憶力がすこぶるよくなるんです。どうしてかというと いったん心の前におかれた事物のいっさいをその心に深刻に印象つけて 細大もらさず心の中の記憶の倉庫内にいれちまうからだ。
反対に 不注意に見たり聞いたりしたことは 完全に覚えてないでしょう。さっきの話にもあったね
見たんだが 見ていない。
実際 古今ともに いわゆる傑出した人物というのは いずれもみんな有意注意力が完全な人々のことを言うんだ。何事に対しても周到にその観念が総合され 従って精神も統一され その結果すべての能力が儕輩(さいはい)をしのぐために いやでも自然と傑出しちゃう。
だから いつも何事でも自分の好むことをおこなうときと同様に気をこめておやりなさい。
あるときカリアッパ先生が
<おまえは 戦のときにスパイをしていたんだろ。じゃあ 普通の人間よりもものを見たり聞いたりするのが 無意識的にもはるかに注意深いだろうな>とわたしに聞いたんです。
<はい>
そりゃ当然ですね。そうでなかったら 私の役目がつとまりませんもん。
<じゃあ それを今日試してみよう。どうだ おまえ 月を見たことあるか>
<月ぐらい 日本だって外国だってありますよ。子供のときから誰でも見てます>
<そう じゃあインドの月もひとつ見てみろ。見るにつけては ただ見たんじゃいけない。おまえが これならば何時間やっても崩れないという格好で見ろ>
そう言われてそこの脇に土の垣根みたいなものがあったから そこで腕組をしてよっかかって座った。そして
<それでいいかい?>と先生が聞いたんで
<結構です>
<おれが動いていいって言うまで 動いちゃいかんぞ>
<承知しました>
<じゃ やってみろ>
月なんて見せやがってばかばかしい くだらないと 内心思いましたけど とにかくやりましたよ。けれども 五分とそうやっていられるもんじゃないんです。まっ あなた方もうちに帰ってやってごらんなさい。いちばん楽だと思う格好が いちばん長もちしないんです。かえって 座禅の結跏趺坐とかの座り方のほうが長持ちするんだ。あぐらかいて ちょっとでも動いちゃいけないって言われたら 五分ともちませんよ。
それでもね しょうがないから月を見ました。月を見たってしょうがないけれど 見るふりをしながら 目であっちこっち見たら 不思議かな あっちでもこっちでも へんなことやってるんだ。片足上げながらとか へんなポーズとりながら 月を見てやがる。
<へえ こいつら本当にまあへんなことやってるなあ。どこまでもこいつら野蛮人だなあ>
こっちは文化人という自惚れをもっていますから 本当に野蛮人だと思いましたよ。
そして 十五分くらいたったら 今度は首と肩が痛くってしょうがなくなっちゃたんです。それでも がまんして見るふりしましたよ。そしてら 先生が
<もういい 見たか>
<はい 見ました>といって 先生のそばに行きました。
<ここに描いてみろ>
<ばかばかしいと思いながら 泥の上に丸いものを描いた。そしたら 先生が
<それだけか>
<はい これだけです>
<ばか これだけってことあるか。月の中にはっきり出てるだろ>
<えっ 見てません>
熱帯の月はね 霧っていうか 靄があまりないから 春夏秋冬によって月の中に見える印象が違うんです。そりゃ注意してみると 実にいろんな形がでているもんなんです。
それぐらい人間の注意力というものは<月の中に出ているものを見ろ>って言われたら 見るかもしれないけれど ただ <月を見ろ>と抽象的に言われたら 肝心なものを見ないですよ。そういうことから 修行させられたんですが これは注意力のいちばん最初の練習なんです。悟るとかものを考えるんだって まとまりがつかなきゃだめだもんね。
*
さらに 官能を啓発するためには 五官感覚にに関する理解とその修練も必要なんです。
ー続くー
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有意注意力
いつも有意のお話ありがとうございます。
意識して拝見させて貰ってます。
聖徳太子はその見本でしょうか。
趣味の世界にも通じるのかなと思います。
2018/06/15 13:45:06