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<心に成功の炎を>27 

2018年05月08日 ナビトモブログ記事
テーマ:中村天風<心に成功の炎を>

<積極>の篇 

 第三章 強い生き方

 今日は 私とあなた方との<生き方の違い>についてお話ししてみたい。
 とにこかくにも 私はこの話をしながら いつも胸にクウッと詰まってくるような うれしい感激が遠い昔の思い出の中に再びよみがえるような気持ちを感じるんです。
 というのは もうすでに詳しくお話ししたとおり(既刊『成功の実現』『盛大な人生』) 自分の人生を求めて 国法を犯してアメリカからヨーロッパへ行って そして2カ年間 世界的に有名な学者や識者を求めて教えを受けたにもかかわらず 誰一人として私を幸福に感じせしめてくれなかったという結果 死ぬ気で日本に帰る途中 もう本当に思いもよらない偶然の因縁から私の先生カリアッパ師に出会い 私の旅行のプログラムに夢にもなかった インドの山奥に入っちゃったんです。
 インドに行った当座は もう毎日 熱は出るわ 息切れはするわ 脈は切れるわ。そして たいていもう 1週間にいっぺんや10日にいっぺんは喀血しているという状態だったんです。
 毎晩 30人ぐらいのグループで 晩飯といったって あなた方の想像もつかないような きわめてカロリーの低い 粗食なんて名前で形容のできないような おそらくあなた方にそれを見せたら 飼ってる犬や猫の食いもんよりも劣ってるようなものを食っていたんです。
 主食が 稗を水浸しにしたものだけ。稗といったら カナリヤが食うものです。人間が食うもんじゃありゃしない。あれを煮るとか焼くとかならまだしも 水に浸したもんなんです。
 ところが 稗しかないかというと ヒマラヤの第三ピークでありながら その麓なもんですから 米が1年に3度できるんです。これは醤油や砂糖と取りかえるための物々交換物質なんです。それと その土地の人間は米を食うとわずらうと思って 食いません。あんなものは 人間の食うもんじゃないと。こっちから考えりゃ 稗なんか人間の食うもんじゃないと思ってるんだ。
 そして 一定の食器も何にもない。春夏秋冬を通じて あのイチジクの葉っぱの上にただ食うものを並べられているだけなんです。それを手でつまんで食べるんですよ。箸もありゃしない。スプーンもないんだ。そんなぜいたくな生活なんてものは ぜんぜん彼らの人生にはないんですから。
 私のいた所は 春夏秋冬 袷ぐらいの陽気で ただ そのイチジクの葉がなまなましいときは ああ これは春だな 夏だなと思う。ややひからびてくると ああ これがいわゆる日本でいう冬の季節だなと思わせるような変化があるだけです。
 そして だんぜん動物性のものは食わないんです。殺すときに動くもの あるいは音を出すものは食っちゃいかんということになっているんです。だから 熱帯国でありながら 熱帯国特有のニンニクというものを食いませんよ。なぜニンニクを食わないか。ニンニクの茎を折るとキュッという音がするもんだから食わないんです。笑えない滑稽です。それだから動物が 獣も鳥も魚も 人間をちっともおっかながらない。
 行きたてに一番先に驚いたのは 子供がね ふざけて馬の後ろ足にかじりついて遊んでるんだ。
 <とんでもねえ あんなことした日にゃ 蹴られちまう>といったら その土地の一人が 
<ポニーは蹴らない>という
 <蹴らないというが 馬は子馬だろうが 大馬だろうが 後ろ足にかじりついたら蹴るわ>
 <おまえの国の馬は蹴るのか>
 <蹴りますとも>
 <インドの馬は蹴らない。見ろ>
 なるほど いくらかじりついても 蹴らないんですよ。子供と まるで種類は違っても 兄弟か親子のような関係で仲がいいんだから。
 人間を見たら一番先に逃げちまうであろうリスなんかが 往来を歩いてると ピョンピョンと肩へとまりにくる。それから インド特有の孔雀がね 人間がいると スーッと寄ってくる。川の中で座禅を組んでいると あのインド特有のカワマスが ひざっ小僧なんか チョイチョイとキスしていく。全然そら人間を恐ろしがらないのは 人間が恐ろしがらせないもん。結局 動物性のものをぜんぜん食わないんだから 動物に対する害心をもってないから 動物は安心してましょ。
 ですから 食うものはというと 要するに野菜ばっかりなんだ。果物は豊富ですよ。いくらでも食えという。いくらでも食えとなると いくらも食えませんよ。人間というものは妙なもんで 食っちゃいけねえというと 食いたくなる。いくらでも食えといわれたものは食いませんよ。
 インドに行っていちばん最初に 私がカリアッパ聖者に聞いたことは 食べ物のことなんです。
 毎日食べる物が カロリーからいったら 千カロリーないんだから それは心細くなっちゃってさあ。こんなもの食ってて 一体全体おれの体はもつのかしらんと思って 2週間もたってからか もうたまりかねて先生に聞いたんであります。
 <私はごらんのとおり 普通の体ではありません。非常に重い病をもってますが こんなものを食べていて 私の体が持つのでしょうか。今までヨーロッパにいるときも アメリカにいるときも どんな場合があっても 必ず3千カロリーは食料から得ることに努力して 肉類は必ず牛か豚か鶏かを3百グラムはとっておりました。ここへ来て 毎日ちょうだいする食べ物を見ると 千カロリーにもなりません。なんとか私だけ別に この体のために特別な食い物はないでしょうか>
 <この国にはないねえ。おまえ 本気でそう思ってるの?>
 <そうです>
 <あれを見よ>
 カリアッパ先生が指さすほうを見たら 大きな象が三匹いるんですが 象もここらで見る象と違うんだ。日本で見る象なんていうのは インドで見る象に比べりゃ小象だ。2千貫ぐらいある象がいるんですからね。耳の大きさだけでも そらもう1メートル半ぐらいの象がいるんだ。牙の長さがね 1メートルぐらいのはいくらもいるんですよ。
 <あれ おまえより大きいかい 小さいかい>
 冗談いっちゃいけないよ。こっちは13貫目(約49キロ)きれてる体なんだ。
 <あれ何食ってる? 1年の3分の2は ここでとれる稲の穂を食ってる。あとの3分の1は 稲の穂がなくなると 我々が食い残した果物や野菜のあまりものを食べてる。人間よりはるかにカロリーが低いものを食べてる。それであれは おまえの何百倍かの体重をもって わずらわずに生きてるな。おまえの体の目方は あのしっぽよりも軽いだろ。それをなんだ これよりほかに食いものはないかとは ほかの食いもんが食いたかったら この国から立ち去るんだな>
 立ち去るったって どこに立ち去っていいかわかりゃしないもん。
<とにかく この国にはこの食いもののほかはないよ>
 ないっていわれりゃしょうがねえ。しかし 心細かったよ。行きたては こんなもの食ってたら たちまち 今の言葉で言うと栄養失調だが その時分には栄養失調という言葉はないから もう飢え死にしちまうわと思った。思いながらも やっぱり腹がへりゃ食わなきゃならないから 食ってる。最初はもう 腹がへるから しょうがねえから食ってるんですよ。うまいとも おいしいとも思わない

―続くー



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