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シニアの放課後
<心に成功の炎を>10
2018年04月18日
テーマ:中村天風<心に成功の炎を>
それで憲兵隊の隊長に 私から
<日本の武士道は敵を愛するところにあることは知ってるな>
<存じております>
<たとえ本部からどんな命令がこようとも おまえの手にある間だけは不自由なく お客様扱いにして この人の一生のよい思い出をつくってやれ>と頼んで その帰り際にそのアメリカ兵に
<いずれまた縁があったら お目にかかるときが来るかもしれない。その日を楽しみに 今日はわかれよう>といって手を出した。そうしたらね。
<失礼だが あなたのお名前は?>と聞くから
<さっきから私はあなたとこうやって長い間 お付き合いしているけれども 一度も私はあなたの名前を聞かないだろ。私はあなたの名誉のためにあなたの名前を聞かないんだ。国と国は不幸にして戦っているが 人間同士 ここになんの恩も恨みもない。今 私があなたの名前を聞くということは ジェントルマンらしくないと思うから あんたも私の名前を聞くな。お互いにあった事実は 一生忘れようたって忘れられることじゃないんだから 今日の日に起こったこのアクシデントは あなたの記憶のページの中にはっきりしたためておけばよろしい。私ももちろんそうする。そしてまた 長い月日の間 ふたたび会う機会が与えられたときに 大いに今日を昔語りとしようではないか。それまで元気でおれ。さようなら>そういって帰ってきた。
ところが そのことがロックフェラーから招かれる動機となったんですから 不思議なもんですな。
そのアメリカ兵は戦争が終わって いったん国へ帰った。しかし どうしてもこの事実を忘れられない。また会う機会を自分でつくらなきゃつくれないと思ったんでしょう。そこで スター アンド ストライプスの日本特派記者を志願したんです。
そして日本に来て その日の事実をそのままアイケルバーガー中将に具申し GHQ(占領軍司令部)の力で調べた。その感謝の意味ということで GHQに呼ばれたわけなんです。
そして いきなり アイケルバーガー中将が
<一体あなたは何をする人なんですか。クリスチャンですか>と聞くんだよ。
<なぜ?>
<いや そういうふうな敵を愛する気持ちをもつものはクリスチャンだけだ>と言うんだ。
<いや 違います>
<クリスチャンでないとすると どういうお気持ちで敵の将校をお救いなすったんですか>と聞くから
<人間の気持ち>と言った。
そうしたらね パッと手を出して
<そういう言葉を日本人の口から聞いたのははじめてだ>と言ったよ。そして
<その本当の気持ちというのは 生まれてからずっともっていたんですか>と聞くんだ。
<生まれてから不幸にして途中で何べんか失った。だが ここのところ 約35、6年もってる>と答えたら
<それはどういうわけです?>
<私はこういう哲学をやった人間だ>と話したら
<その哲学ならば 我々アメリカ人が今 非常に干天に雲影を望むほど待ちこがれている哲学だ。それはぜひともひとつ講演で聞かせてください>
というのがもとで 記者クラブになっている有楽町の毎日新聞のホールで ヨガ哲学のレクチャー(講義)を始めることになったんであります。
そうしたところが そこに来ていたロックフェラーが気に入っちゃったわけだ。とくに ロックフェラーが感激きわまって 私に即座に来てくれという気持ちを起こしたのは インドのヨガの哲学の中に クンバハカ密法というのがあります。本場のインドでもその具体的な方法を教えない。クンバハカ密法の<How to do>を私がわかりやすく実践的に解いてやったからなんです。
さあそれからというものは 惚れた女を口説くより以上の熱心さで 首に縄をつけても引っぱっていこうとするんです。
彼は 当時としては 破格の金額を報酬として用意しますと言うんだが 私は断然行きません。
なぜ行かないかというと<世界の平和の光は日本から>という信念を持っていますから。
世界の平和は日本がリードしていく。そのために まず日本人を正しいものにつくり上げることを私の生涯の務めとしてるんです。それは 確固不抜 私の心から消え去らない信念なんであります。
*
ー続くー
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