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小説「結婚物語」No.5　

2014年09月30日
テーマ：暮らし

　結婚の意思を固め、結婚相談所に入会する
ことを決めた男女それぞれの想いというものは
世間から見ると″自分で相手も見つけられないのか″
という目に、気遅れした思いを抱え来所してくる
人も少なくない。
確かに結婚願望があっても、いざ結婚したいと
思って、辺りを見廻しても意外と無いのが、
出会いである。

それぞれのキッカケがあって結婚相談所への
入会となるものだが、当サロンの門を叩く
勇気を称えたいという思いを持って、来所して
くださる独身男女と接するのが私たち仲人業の
仕事なのだ。
そうした気持ちがあって、当サロン結婚仲介業の
宣伝文句には「あなたの私設応援団！」という
謳い文句を掲げていた。
食パン君は、そうした会員の中でも最も印象に
残るサポートをさせてもらった男性会員という
ことになる。

私がサロンを留守にしている間、食パン君は
会員情報ファイルから2-3人の女性へ
「お見合い申込み」の依頼をしていっていた
のだが、お相手の女性たちが所属する
各結婚相談所からのその返答は、すぐさま
「ご縁が無いようです」の一言で初めての
オファーは失敗に終わっていた。
（＊注：結婚相談所ではお断り時には、この
「ご縁が無いようです」の一言で、すべてが
終了する決り文句になっている）

約束の土曜日、時間通りやってきた食パン君は、
爽やかな顔つきで、私も安心したものである。
私からは、今日のイメージチェンジ作戦の
工程を伝え、まずはオシャレなメガネ店に
連れて行った。
食パン君にとっては幼少期からメガネは必需品。
そのためか、慣れた様子で検眼に応じ、私は
その間メガネフレームをいくつか選んで置いた。
「ド」がつくほどの近眼のためか、レンズが
厚いので先ず、ノンフレームメガネは無理と
なったが、オート形というのか、私が選んで
おいた人気のレイバンのフレームが、彼に
似合った。
結局そのメーカーでメガネを作ることで
落ち着くことに。

メガネ店は2時間ほどで仕上がるというので、
その間に予約をしておいた男性ヘアースタイ
リストだけでやっている美容院にお連れした。

イメージチェンジする事情を事前に話し、私が
イメージするスタイルも言い、後はお任せ
したいと告げておいた。

食パン君はまさしく「まな板の鯉」である。

そこのオーナーであるヘアースタイリストは、
腕を鳴らして待っていてくれたようで、
食パン君のヘアースタイルを迷いなく一気に短く、
軽くしていく…
髪を切られている食パン君は、メガネを外して
いるため、ど近眼の裸眼では自分の変化はまだ
見えない。
座って見ていた私も、さすがプロの美容師の腕に
納得したものだ。

一時間ほどで、食パン君のヘアースタイルは
イメージ以上にアップしたのには、さすがの
本人もビックリし、照れながらもとても嬉しそう。
まんざらでもない顔で鏡をチラチラ見ている。
あんなに多くて硬い毛質を活かしてのカット
デザインに仕上げ、軽くワックスを付け、
ランダムに立ち上げた今風なカットも、嫌味なく
似合っている。

私は思わず、食パン君とヘアースタイリストたちに
拍手を送った。
食パン君は「使ったことが無い」ということで
その店でヘアーワックスを購入していた。
彼と私は、気分よく美容院を出て、メガネを
受け取りに行く途中のメンズショップでも
麻のジャケットを買いたいというので
付き合った。
彼はそこでネィビーカラーが似合ったので
ジャケットも購入する。

残るは仕上がったレイバンのメガネを
受け取れば完璧。

メガネフレームの上部枠にマットな金属製で
仕上げたメガネが出来上がり、かけてみると
フレームデザインの威力にも驚かされる
ものがあった。
彼にはとてもよく似合ったので私はホッとした
ものだ。

これで食パン君の「お見合い大作戦夏の陣」が
開始できる。

これでは「食パン君」の名を改名しなければと
思ったほどである。
我ながら、彼の隠れていた精悍さも、清潔感も出せ、
頭の良いスポーツマン男子へのイメージチェンジは
大成功、共に大満足したものだ。
しかしこれも、食パン君が素直に応じてくれ、
イメチェン作戦に惜しみなくお金をかけて
くれたからだと思う。

その日は、デジカメで写真を撮って食パン君と
別れることに…彼は新しいヘアースタイルが
気になるのか、何度か頭に手をやりながらも
付き合った私への丁寧なお礼も忘れることなく、
そして、嬉しそうに帰っていった。

私はサロンに戻り、「新・食パン君」の
新しい画像を取り込んですぐさま、プロフィール
写真の更新手続きを済ませておいた。
?さぁ、頑張ってよ″と、一人エールを送った。

数日後、大下かをりさんから鑑定後の
初メールが入ってきた。
?お礼のメールかしら…″と開いてみると…　

　　　　　　　　　　　　つづく

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