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心 どまり

歌字尽(うたじづくし) 

2014年03月15日 ナビトモブログ記事
テーマ:トリビア

 今日は、昨日とは打って変わり暖かでしたね!
春の陽ざしが、とても心地よく感じられました。

 早朝、庭に出て見ますと昨日降った『春の雨』の雫が、満開になった寒椿(桜侘助)にも、まだ残っていました。

 季語では、陰暦(旧)正月から三月初め頃に降る雨を『春の雨』それ以降に降る雨を『春雨』と言い区別しています。

 因みに、今年の陰暦元日は1月31日でした。
現在、使用されている新暦(太陽暦)の月遅れに近い日付に成っていますので、現在の暦では、二月の初めから四月初め頃に降る雨が『春の雨』と言う事になります。

 品のいい淡いピンクの椿の花を眺めておりまして、
”春つばき、夏えのきに、秋ひさぎ・・・”
で始まる『小野篁(オノノタカムラ)歌字尽(ウタジヅクシ)』が、浮かびました。

 『歌字尽』とは、簡単に言いますと江戸時代に寺子屋等で、漢字を覚える為に使用された『教科書』の様な書物です。
江戸時代初期に作成刊行された、いわゆる『往来物』と呼ばれる物の一つです。

 『往来物』とは、平安後期から明治初期に掛けて使用された、初等科教科書の総称でもあります。

 『往来』とは、本来手紙のやりとりを意味し、平安時代には手紙を束ねて模範例文集としていました。
後に教科書用に書簡を編集するようになり、さらに単語集や短文集等、手紙の形式を離れた物も作られるように成りました。

 当初は、貴族や武士の子弟教育の為に、日常生活や儀礼、諸行事に関する文例が多用されていましたが、江戸時代になり寺子屋等の教育制度が発達し、庶民層にも教育が普及して来ますと、職業・道徳・一般教養等 庶民を対象とした様々な往来が多数作成されたようです。

 『往来物』の中でも、特に有名なのが『小野篁歌字尽』です。後々、この書を基に様々なパロデイ本が作成されています。

 同じへんやつくりなどの、似た紛らわしい漢字や、難しい漢字を覚える為、或いは理解する為に、分け並べられた漢字に歌が付けられています。

 その歌は、私達日本人にとって馴染み深い、五・七・五や五・七・五・七・七の短歌や俳句の形で、リズミカルな調子の覚えやすい歌です。

 例えば、『木』へんに『春・夏・秋・冬』を付けた漢字の歌は、下記の様になります。

  木    木    木    木    木
  +    +    +    +    +
  春    夏    秋    冬    同
  ↓    ↓    ↓    ↓    ↓
  椿    榎    楸    柊    桐
 春ツバキ 夏はエノキに 秋ヒサギ 冬はヒイラギ 同じくはキリ

 また、似た形の紛らわしい漢字を解りやすく説明したこの様な歌も有ります。

  巳 ⇒ 巳は上に
  己 ⇒ おのれ、つちのと下に付き
  已 ⇒ すでに、やむ、のみ中程に付く

 これは、三画目の書き始めが、一番上の横線の所から書き始めるのか、二番目の横線からか、それとも二本の間から書き始めるかで、全く違う漢字になると言う事を歌っています。

 その他にも、大変興味深く面白い『歌字尽』が存在します。
『魚へん』の漢字だけを集めた『魚字尽』や『小野篁歌字尽』には無い漢字を用いて、字形の似通った漢字を集め、暗誦用の狂歌を付けた往来物『安政歌字尽』もあります。

『安政歌字尽』の中で面白い物に

『吉(きち)吝(あわれむ)召(めす)吞(のむ)唇(くちびる)』

『口』の付く漢字を列挙した後に、

『士(し)は吉(きち)よ!文(ぶん)は吝(あわれむ)、刀(かたな)召(めす)、天(てん)は吞(のむ)なり、辰(たつ)は唇(くちびる)』

と言った狂歌が添えられています。

 また、現在でも通用する俗字の『姦(やかましい)』や『轟(とどろき)』など同じ漢字を重ねた、ユニークな物もあります。『安政歌字尽』の最後のページには『心』と言う漢字を幾つも並べ重ねた俗字が記されています。

 「心こそ、二つ かなしむ、四つ まよふ、三つ うたがう、五つ よろこぶ」

まるで謎掛けをしているようですね!

 また、『安政歌字尽』には、作者の粋な遊び心が隠されています。掲載した画像の、冒頭十六行の頭文字を横に読んで行きますと、

『因幡御城下住紐野吉冶歌字尽作如此』

となり、筆者の自己紹介的な文が隠されています。

 古典本や古文書の類を読んでいますと、筆者からのメッセージや秘密のパスワードが何処かに隠されている様な気がしまして、ドキドキ ワクワク胸が躍ります。


* 『のむ』と『心』の漢字を重ねた文字は俗字の為、PCで変換出来ませんでした。
『のむ』は、天の下に口を書いた文字です。
『かなしむ』は、心を二つ縦に重ねた文字です。
『まよう』は、心を四つ縦横に、二つずつ並べ重ねた文字です。
『うたがう』は、心を三つ上段に一つ、下段に二つ重ねた文字です。
『よろこぶ』は、心を五つ上段に一つ、中段に二つ、下段に二つ重ねた文字です。



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理想です

さん

古文書や古典書。読んでおられるのですね。私も、何時か読むことが出来ればと思っていますが、なかなか読めません。良?さんに天体観測にと、向学心を感じます。私も、見習わねばです。

2014/03/20 15:02:32

興味深いです

tokichanさん

国語の先生でいらしたのですか?古い本のことをよくご存知ですね。漢字のなりたちを知るのは頭の体操にもなるし、同時に心も深くなるような気がいたします。

2014/03/17 11:51:28

漢字は深いです。

さん

書くことも少なくなり 簡単な字も忘れ
ていきます。 女3つでやかましいーるほどね。

2014/03/16 21:55:28

よく勉強されていますね~♪

みのりさん

良香さん

よく勉強されていますね〜〜♪

私も今『俳句の勉強中』です。

なかなか上達できませんが

先生に見て頂いています。

2014/03/16 11:23:27

博学ですね

さん

木に秋は読めませんでした。
おおよそ、右の文字を読むことが多いかな。

日本の漢字はひと文字で様子を教えてくれてすごいと思います。

2014/03/15 19:44:21

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