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作品名 殿、利息でござる 評価 評価評価評価評価評価(5)
タイトル 無私の人々
投稿者 パトラッシュ 投稿日 2016/05/25 09:04:03

「ぎっぎっ」
禍々しい音が、夜の闇に響く。
大八車の車輪が、小石に当り、荷の軋む音だ。
車上には、溢れんばかりに、家財道具が積まれている。
夜陰に乗じての、文字通りの夜逃げであるらしい。

これを二階の窓から、老人が見ていて「おい」と一家を呼び止める。
「金はねえ、勘弁してくれよと」哀願する夜逃げ者。
どうやら老人は、金貸しであるらしい。
冷酷に返済を迫る、その後のシーンを予感させておいて、映画が始まった。

領主からの苛斂誅求に耐えかね、百姓が他国へ逃亡することを
「逃散」(ちょうさん)と言った。
仙台藩吉岡宿の場合の誅求は、伝馬(てんま)と言われる、
宿場間の荷駄運搬の課役であった。人馬を徴用し、ただで使役する。

逃散者が続出するほど過酷なそれを、なんとか免れる方法はないものか。
藩に大金を貸し付け、その利息をもって、町の財政の基盤とし、苦役を緩和する。
そんな奇策を、思い付いた町民がいる。
賛同する者が現れ、その数が増え、紆余曲折の末に、遂に千両もの金を捻出する。
それは、並大抵の努力ではない。
金目の家財を売り、爪に火を点すような生活に耐えた、その果てにである。
何が人々を、そこまで駆り立てたのか。
民の難儀と町の衰退。
それを見るに見かねて、であった。

ともすれば「お涙頂戴」になりかねない物語を、時に笑いを交えつつ、
軽やかに物語を運んで、観客に重荷を担わせない。
歌舞伎で言うところの「もどり」(悪人と思われていた人間が実は善人であった)を多用し、
観客の意表を突く。(冒頭のシーンもその一つ)

そうだったのか……
事実を知らされた観客の感銘は深い。
その連続となると、さすが鬼の目にも(これ修辞の綾ですよ)滲んで来るものがある。
同じ涙でも、美しさに出会った時のそれは、爽やかでいい。

美しさの元は「無私」。
利潤や功名を求めるのではなく、人のため、社会のために、その力を尽くすこと。
それが人間の印象に、強く感光しないわけはない。

この映画を見た多くの観客が、折しも話題の、
一人の人物を、思い浮かべたのではあるまいか。
無私とはほど遠く、法網を巧みに突いて、己の驕奢を求め、
私腹を肥やすことをのみ考えた男が居る。
それが権力者だから、困惑する。
彼の見苦しさに比べ、名もない庶民の、何たる潔さであろうか。

この映画から、もう一つ、考えさせられたことがある。
己の身代、時代を考えるのみでは、いけないと言うことだ。
子々孫々を思いやる。
その苦の種を取り除いてやる。
これこそが、今を生きる私達の責務ではないか。

そうすると、国債という名の借金を、子孫につけ回し、
安逸をむさぼっていることが、恥ずかしくなる。
その無害化まで、何万年もかかる放射性廃棄物を、後の世に、負の遺産として残してまで、
原発に頼り、電力を浪費している私達の生活に、疑問を持ちもする。

そこまで考える必要は、ないかもしれません。
単に娯楽作品としても、楽しめる映画です。
皆様のご観覧をお勧めするものです。

追記
私の映画レビューは、常に☆五つであります。
それもそのはず、これぞと言う映画にしか、レビューを書かないからであります。

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MOMO
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コメント

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さん

今の世に、「無私」で、何事かを成す為に同志を募り、長い期間我慢する人間が、どのくらいいるでしょう?
私の一生でも、PTA改革の時くらいでしょうか?(小さい!)

私は、宿場について学んでいて、伝馬の厳しさは知っていました。
主人公は、金貸しだったのですね。
しかし、本当の心は、この宿を愛していた。
阿部サダヲさんは、上手い役者です。
笑を散りばめながら、素晴らしい「戻り」を見せてくれたことでしょう。
観に行きたくなりました。

今、話題の政治家は「恥」を知らない人間だと思います。 情けない。
世界でも突出した国債も、原発も、負の遺産でしかありません。
一人一人が、この国の未来を見つめ直す時が、とっくに来ていると思っています。

2016/05/25 10:03:34

吾喰楽さん

「無私」、いい言葉ですね。
昔、総理大臣が云った「滅私奉公」にも通じます。
彼の言葉には、違和感を覚えましたが、考え方は好きです。
今の政治の世界では、「無私」も、「滅私奉公」も、死語になったようです。

2016/05/25 11:57:07

プラチナさん

無視される事は有っても、無私になる事は難しいものですね。
早速、観に行こうと思ってます、有難うございました。

2016/05/25 14:23:50

パトラッシュさん

SOYOKAZEさん、
小さくありません。
PTAの改革だって、立派な業績です。
しかも手弁当で。
誇りにしてよろしいでしょう。

阿部サダヲという俳優、私は知りませんでした。
(そもそも、芸能界には疎いのです)
しかし、よくやっていました。
それを言えば、すべての出演者が……ですが。

この映画、見ごたえがあります。
お暇がありましたら、是非ご覧になって下さい。

2016/05/25 18:58:07

パトラッシュさん

吾喰楽さん、
たしかに死語でしょうね。
そもそも奉公ということが、なくなっていますから。

今は豊かな時代ですが、貧しい昔の人の方が、偉かったと思わされることが、しばしばあります。
豊かな時代は、むしろ人の心を貧しくさせるのかもしれません。

2016/05/25 19:01:10

パトラッシュさん

プラチナさん、
私も無視される方です。
無私でありたいものですが、なかなか実行することが出来ません。

映画、騙されたと思って、是非ご覧になって下さい。

2016/05/25 19:02:47

Reiさん

以前、「やっててよかった○○式」という学習塾を家でやっていた時に、会社の人から「忘己利他の心で」という言葉を何度も言われました。
私たち指導者の収入は、生徒の数による歩合制でした。決まった給料をもらっている社員がそんなことを言うのは変だなと、いつも思っていました。

これは面白そうな映画なので、観てみたいです。

2016/05/25 20:27:47

パトラッシュさん

Reiさん、
「忘己利他」いい言葉なのですがね。
凡人はなかなか実行できないところが、つらいです。
学習塾の社員がねえ……そんなことを言うのですか……

映画はお薦めです。
是非ご覧になって下さい。

2016/05/26 06:53:30


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