+++半分以上結婚したみたいな気分になるのであ
る。久しぶりに明るさの戻った女の顔を眺めて、私は
可笑しかった。
54/67.面接試験
長期戦を覚悟して、ソックリさんを探し始めた。無
論活動の主体は女の方で、私は知恵を出す参謀であ
る。スリラー風に言えば、黒幕が私で悪だくみを担
当し、女が下手人という訳だ。
女はデザイン関係で印刷会社の仕事に従事していた
から、その方面の事情に詳しかった。それらの会社に
は比較的若い、と言っても中年ではあるが、経営者が
多いと女は云う。
時間の融通がつけ易い派遣やアルバイトの仕事を続
けながら、ネットだけでなく地元のハローワークも通
じて、積極的に女は新たな仕事を探し始めた。面接さ
れる回数を意識して増やしたのである。
狙うのは規模の小さな印刷会社。面接時に経営者で
ある社長と直接面談が出来るからだ。
経営者が老人だったり、若くても余程感性が会わな
い相手であれば、女の方から採用されないような面接
のされ方をした。
女の歳になれば、大抵何らか形で結婚について問わ
れる。採用する側は、結婚して直ぐに辞められては困
るし、子供が出来て長期に休まれても困るからだ。小
企業なら、なおさらその辺りは慎重である:
「君は、結婚はしないのかね?」
私との事前の打ち合わせで、女はこう答える事にし
ていた:
「ええ、結婚はしない積もりです。デザインの仕事で
独り立ち出来るように、仕事に頑張りたいのです。結
婚していては、なかなか技量の上達が出来ませんから
ーーー」
他方で、相手のそんな質問は女の側にとってもチャ
ンスである。相手がそこそこ良さそうな人物と感じたら、逆手に取って、あたかも何気ない風を装い、女も
こんな質問を返す:
「社長さんも、独身でいらっしゃるんですか?」
独身と聞けば:
「雇って下さい。絶対会社を休みませんし、必ず期待
に応えた仕事をして頑張りますからーーー」
妻帯者だと判れば、面接の翌日に電話で断る手筈に
なっている:
「他の応募先へ、昨日先約の口が決まりましたのでー
ーー、ごめんなさい」
(比呂よし)
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