+++心は恐怖で震えた。角を生やした自分の配偶者
を思い出したからだ。あの女は世にも恐ろしいーー
ー、事は一大事となる。
52.そっくりさん
「話を聞いて呉れたり、親身にアドバイスを呉れる
とか、優しい包容力は社長さんの職業病なのよねーー
ーきっと。それが判ったわ」
「社長の職業病ーーー?」
「ウフフ、そうよ。大勢の人を束ねる事に慣れている
から、社長さんは自然にそんな人柄になって行くの
だと思う、きっと」
「ーーーー」
「立場が人を作る、とお父さんが教えてくれたじゃな
いの!」
「そりゃ、そうだがーーー」
「私が結婚する相手は、社長さんであるべきだわ、絶
対に。そう決めたのよ!」
「ーーーー」
断固たる口振りだ、ついに、来るべきものが来たー
ーー。
けれども、人生は大抵楽観的に展開する。嬉しい
事に、この時もそうなった:
「若い相当品を探す事にしたのよ、お父さんのソック
リさんをよーーー。だから、協力してよ」
「僕の相当品ーーー?」
「私を好きにならせたんだから、ソックリさんを探す
のは、お父さんの責任よ!」
何か無茶な理屈に成って来たーーー。
私が女を慈しむのは、社長なればこその職業病の結
果だと、悩んだ末に女は独りでそんな結論にたどり着
いていたのだ。「慈しむ」本当の理由は、自分が「老
人な上に、金がない」為だけれど、私は女の勝手な誤
解を解かない事にした。
異を唱えず、女の理屈に賛成する事にしたのであ
る。
思い決めたら、女の考えは展開が早かった:
顔の造作は二の次で、私とソックリな独身の相当品
を探そう。そして自分の持論に従って、結婚してから
相手を「好きになる事にしよう」と、女は順番をそう
決めた。
結婚して熱心に繁殖行為を続ける内に、愛情は後か
ら湧いてくる筈だからーーー、その後を女は心配しな
かった。
(比呂よし)
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