+++「ウフフ、それだったら、人を楽しませる目的を果したんですから、初期段階で私の芸術は既に成功したも同じね」
自信があって、なかなか賢い受け答えである。
19.ガラスの壁
案内板の矢印に従って、広い駐車場
からレストランの入り口へ向かう小道
へ折れ曲がった。日差しの強かった広
場から急に日陰に入ったから、真っ暗
く感じて蹴躓きそうになった。
下はアスファルトで両側が腰くらい
の生垣になっている。横に並んで歩く
には狭かったから、女を先に立たせて
私は直ぐ後に続いた。
女のお尻を眺めて数歩進んだ時で
ある。道が緩く右へ折れる処で、先を
歩く女が突然何かにぶつかり、あっと
声を上げて棒立ちになった。女の背中
にぶつかりそうになって、私はつんの
めった。女は片腕を前へ伸ばして、不
審な声を挙げた:
「変ですねえーーー、道の真ん中に壁がある!」
「えっ、何処に?」
よく見えなかった私は怪訝な思いで女の前方へ眼を凝らした。こっちは、最近白内障の手術したばかりの老眼である。
「ほら、ここよ!分厚いガラスの壁がとうせんぼして、前へ進めないわ!」
女は私をニ米程後ろへ下がらせて
から、ハンドバッグを地面に置いた。
それから両方の手のひらで目の前のガ
ラスの壁をペタペタと触って見せ
た。
「ホラ、ホラッ、ホラッ!」と言いながら両手で撫ぜまわし、次に押したり引いたりして、通路にある邪魔物を無理にどけようとした。
それでも壁をどけられず、とうとう
自分の体を寄りかからせて、力づくで
無理に押した。しかしびくともしない
らしく、一向に前へ進めない。
なぜ通路の真ん中に、丈夫なガラス
の壁があるのか事情が呑み込めず、私
は思考を失ってポカンとした。
次の瞬間、事態は急展開した。力任
せに体を寄り掛からせていた女は、急
につっかえが取れて「キャッ!」とい
う声と共に、通路の向こうへもんどり
を打って転げた。壁が突然消失したか
らである。
私が仰天した途端、女が甲高い声で笑った:
「アッハハーー!」
「ーーーー?」
(つづく)
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