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作品名 アカンタレの話(41) 評価 評価(1)
タイトル アカンタレの話(41)
投稿者 比呂よし 投稿日 2014/02/05 09:49:04

+++同居する配偶者もそんな私の苦しみや精神構造
に気付くことは無かった。ただ、神経質で転職の好
きな、顔の暗い男だと見ていた。

41.証明の実現

 社長になれず、言い換えれば、自分が「アカンタレ
でない!」のを証明する機会を得ないまま、人生は半
ば以上が過ぎて四十の中年になった。そして、あには
らんや、失業してしまったのである。

 もはやチャンスの見込みは絶望的。失業者と社長と
では、世界が違い過ぎた。「アカンタレ!」を抱いた
まま人生が終わるのかーーーと思うと、身に黒いペイ
ントがしみ込むように悄然とした思いで、目の前が暗
くなった。

 社長になる計画は取りあえず棚上げし、暗い目の前
をかき分けて「食うために」何でもやらなければな
らない。就活で何処へでも応募した。しかし何処でも
断わられ続けて、自分の甘さを思い知らされた。今と
違って、生活保護手当ては不充分で、便利な派遣社員
制度も世に無かった時代だから、死に物狂いになっ
た。
 過保護でユルキャラな今の時代は、人を本気にさせ
ないから、その意味では必ずしも良い時代とは言えな
いかも知れない。

 強制的に方向転換をさせられて、畑違いのセールス
マンの道を歩み出す。これが「当った!」のは先に書
いた通りである。

 やがてセールスの腕を生かして会社を興し、二十名
ほどの規模ながら「社長になる」という念願をついに
実現した。その過程の詳細については別に書く機会が
あるかと思うのでここでは省くが、形も一応全国規
模で、昔の語学力を生かして、今では取引先がドイツ
・英国・イスラエル・カナダにまたがるようになった
から、国際的でさえある。

 こうして「アカンタレでない!」のを、何とか実証
して見せた結果になった。五十近くになっていた。西
の地平線へ沈み行く太陽をぎりぎりの所で捕獲したよ
うなもので、人生の残り時間から考えると、危うい冷
や汗ものであった。

 もしそうでなかったなら、何の為に自分は生きたろ
うかと悩み、「アカンタレ」という苦い思いと悔恨
が、終生私を酷く苦しめる事になったろう。そんな地
獄から逃れられたと思うと、ほっとすると同時に、そ
れまでの執念に満ちた人生の大半がまるで気違いじみ
たプロセスだった、と思ってしまう。

(つづく)

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